町の印刷所が開発した「おじいちゃんのノート」 ショウワノートと組んで来春量産化へ
東京都北区の住宅地の一角にある中村印刷所。同社が開発した「ナカプリバイン(おじいちゃんのノート)」は水平に180度開けるのが特徴だ。そのため、左右の段差が起こらず、コピーを取ってもきれいに複写できる。今年1月、短文投稿サイト「ツイッター」で話題になったノートだ。そのノートがショウワノート(富山県高岡市)の協力で量産化されることになった。
ナカプリバインは、中村印刷所の中村輝雄社長と、7年前に製本業を廃業して同社で働くことになった男性従業員が開発した。電子商取引の普及などでオフィスのペーパーレス化が進み、年々受注が減る中、「何か新しいことを生み出したい」(中村社長)と、2012年ころから開発に取り組んできた。
従来の無線綴じのノートと違い、ナカプリバインは、紙の断面に1ミリ未満の傷を何カ所も付け、そこに違う種類の接着剤を2回に分けて塗布する。14年11月に「無線綴じ冊子の製本方法」として特許を出願、翌15年5月に取得した。同年3月には東京都の新事業分野開拓者認定制度にも合格した。
それに先立ち、その年1月の発売開始後、大手の文具メーカーや事務用品メーカーなど、約50社に出向いて商談を持ちかけた。数千冊の大量発注の話があったものの、実際の注文には至らず、見越して生産した8000冊のノートが工場内に積まれた。
転機となったのは今年の元日早々。男性従業員がその孫に「特許を取ったけど、全く売れなくて」と話したところ、「今の時代、ノートを使う人が少ないから。とりあえずツイッターで流してみよう」と、「うちのじいちゃんがつくったノート 売れたら自転車を買ってあげたい」と投稿した。
するとその情報はすぐに拡散し、ネットメディアなどで話題になり、瞬く間に在庫は一掃。さらに3万冊以上の受注残を抱える事態になった。実はナカプリバインは手作業で生産しており、1日に300冊を作るのが精いっぱいだった。
「日本の将来を担う子供たちに良質なノートを届けることで、学習に取り組む意欲を後押ししたい」(中村社長)との思いから、学習帳大手のショウワノートとの間で6月30日付で水平開きの小学生向けのノートを製造・販売する契約を結んだ。すでに量産試作品の開発に着手。今秋には小学校の現場で実際に児童に使ってもらい、罫線のデザインや強度などの使い勝手を調べ、2017年春の商品化を目指す。
10日には「おじいちゃんのノート~下町の職人魂がオンリーワンを生んだ」と題した本を上梓(じょうし)した。中村社長は「勉強嫌いの子もこのノートがきっかけで勉強好きに、そしてものづくりの大切さも分かってもらえたらありがたいですね」と話す。
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【会社概要】中村印刷所
▽本社=東京都北区滝野川6-46-10
▽設立=1938年7月
▽資本金=1000万円
▽従業員=4人
▽事業内容=印刷および製本
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