鴻海出資まだか? シャープ「3兆円企業」の面影なし 韓国勢台頭も対策打てず
台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下で経営再建を目指すシャープにとって、米アップルへの依存が足かせになりそうだ。平成28年4~6月期連結決算では、アップルの不振が直撃し売上高が前年同期比の3割減と深刻な状態に陥った。もはや「3兆円企業」の面影はない。今後、次世代パネルの「有機EL」の開発を進めアップルへの納入を図るが、開発の原資になるはずの鴻海からの計3888億円の出資が遅れている。有機ELをめぐっては韓国勢が台頭する中、シャープは対策が打ち出せない状況が続く。(織田淳嗣)
「親日」演出するアップルだが…
「売上高下落は、特定顧客向けということになる。第2四半期以降、体質を固めたところで、売り上げを拡大していきたい」
7月29日に行われたシャープの決算会見で野村勝明副社長はこう述べ、アップルの不振が直撃したことを認めた。
その3日前の26日、アップルが発表した2016年4~6月期の最終利益は前年同期比27%減の78億ドルとなった。
昨年発売したスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の売り上げが伸び悩んでいることが要因だ。世界販売台数が前年同期比15%減の4039万9千台で2期連続で減少した。地域別では、中国地域が33%の大幅減。現地メーカーが比較的安価かつ高性能なスマホの量産に成功しており、打撃をうけた形だ。
一方で根強い人気を誇る日本国内では23%増。アップルは8月2日には日本企業865社から年間3兆円以上の部品などを仕入れていることを明らかにした。アップルはこれまで、取引の状況をほとんど公開していなかったが、「親日」を演出して日本での売り上げ拡大を目指しているとみられる。
こうしたアップルの苦境はシャープの事業を直撃している。4~6月期の液晶事業は37・7%減の1170億円。液晶事業は毎年1兆円近くを稼いでいたが、今年度は大幅に割り込むこととなりそうだ。カメラ部品など電子部品も同45・1%減の750億円だった。
すでにシャープは米アップルへの液晶供給先としての地位は、ジャパンディスプレイ(JDI)や韓国LG電子に押され、3位に甘んじている。中国メーカー向けの液晶パネルの販売競争は激化しており、シャープは当面、アップルへの売り上げ拡大を目指すことになる。
ディスプレイでは韓国を追う立場に
野村氏は売上高の低迷について「ここがボトム(底)」とも述べたが、根拠は乏しい。販路拡大や生産の効率化など、今後の具体的な対策についてはすべて「(鴻海からの)出資後の検討」とされ、前倒しで実施されているものはない。
シャープが今後、アップルへの納入を図る部材は次世代パネルの有機EL。有機ELは将来のアイフォーンに搭載される予定で、サムスン電子やLGなど韓国勢も開発を進めている。
英調査会社のIHSのアナリスト、早瀬宏氏は「有機ELは生産技術や性能などでまだ課題がある。
課題を韓国勢にクリアしてもらい、シャープなどは後から追いかける展開でも良いのではないか」と話す。かつて液晶で先行した日本と、追随した韓国の立ち位置は、ディスプレイ分野で逆転しつつある。
シャープは鴻海からの出資完了後、2千億円を有機ELの量産に向けて投じる計画だ。主力の亀山第2工場(三重県亀山市)や、本社を置く堺工場(堺市)での量産が検討されている。
だが、榊原聡・執行役員は鴻海からの出資の遅れが有機EL開発に与える影響について問われると「出資が決まった後で、詳細に検討したい」と述べるにとどまり、計画そのものが停滞していることをうかがわせた。
出資のめどが立たない中で再建も遅れ、人材の流出が進む悪循環。シャープは10月末にも行われる28年度9月中間連結決算で、再建計画の詳細を発表する見通しだ。だが、技術革新の進むディスプレイ分野では、迅速な意思決定と量産化計画が欠かせない。前倒しをしてでも計画を先に進める必要がありそうだ。
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