赤穂化成「海洋深層水ミネラル」
ビジネスのつぼ■安全・安心 オーダーメードで差別化
血液がサラサラになるなどの期待から、2000年前後に一大ブームを起こした海洋深層水。無機ミネラルの総合メーカー、赤穂化成の業務用「海洋深層水ミネラル」が、健康志向の高まりを受け、売り上げを伸ばしている。顧客のニーズに合うよう、海洋深層水に含まれるマグネシウムやカルシウム、ナトリウムなどのミネラル分の調整を行い、他社との差別化に成功したことがヒットの要因だ。
◆食品添加物の代替材に
「塩とカルシウムを抜いてください」
第二営業部健康業務用グループの坂井聡課長は、海洋深層水のミネラル成分について、得意先の食品・飲料メーカーから細かな注文を受けることが多い。
天然・自然にこだわる商品を製造したいメーカー側は、食品添加物の使用を避けたいと考えている。そこで、海洋深層水から顧客の要望に応じたミネラルの組成、濃度に調整してから出荷するのだ。坂井さんは「うちは製塩メーカーとしてのノウハウを生かし、海水からミネラル成分を分離させる技術がある。オーダーメードの海洋深層水ができるのが強み」と話す。15年度の業務用深層水の売り上げは10年度比で2.35倍と主力商品に成長した。
海洋深層水は通常、光合成に必要な太陽の光が届かない水深200メートル以上の深さで水温が急に冷たくなる層にある海水のこと。体内で作ることのできないミネラルを多数含んでおり、現代人に不足しがちなミネラルを補う“海の水”として注目されてきた。
特に食品加工業界ではさまざまな用途に使われる。たとえば、海洋深層水を用いてコメを炊くと、ふっくら、つやつや、もちもちのご飯が炊き上がる。これはコメの細胞壁にマグネシウムが付着し、炊飯時に細胞が壊れるのを防ぐ効果があるため。これを生かし、最近はスーパー、コンビニエンスストアの弁当やパックご飯などに用途が広がっている。煮崩れがしにくいという特長を生かし、魚の缶詰製造にも利用されている。
業務用の好調な販売を支えているのは、消費者の「食」に対する安全志向の高まりにある。業務用は主に、食品添加物の代替材としてミネラル強化や炊飯向けとして使われる。通常、ミネラル強化には食品添加物が用いられ、その場合、添加物表示が義務付けられる。海洋深層水のミネラルを使用した場合は天然食品原料100%であり、添加物表示する必要がない。
ところが15年4月の食品表示法施行に伴い、現在は任意となっている加工食品の添加物などの栄養成分表示が原則として義務化される。業者の準備期間を確保するため義務化は20年からで、「無添加」の表示を重視するメーカーにとって、海洋深層水の需要は今後も高まるばかりだ。
ちなみに、一般の飲料水などと異なり、業務用では最終製品のラベルに「海洋深層水」とうたうケースはほとんどない。「使用している量が少ない」(坂井さん)というのが主な理由で、商品の素材の良さを引き出しながら消費者に知られない、いわば“黒子”のような存在なのだ。
◆知名度向上が課題
消費者への知名度を高めようと、赤穂化成は海洋深層水の健康効果についてもさまざまな研究を重ねてきた。大学や研究機関との共同研究の結果、免疫機能の増強が期待できるほか、食後の血中の脂質上昇を抑制したり、ピロリ菌の増殖の抑制効果が大きかったりすることなど70件以上が学会で発表されている。坂井さんは「研究で分かった長所を生かした商品を顧客と一緒に考え、共同で特許を取ることもあります」と明かす。
かつての海洋深層水の一大ブームを知る坂井さんにとって、現在の消費者からの知名度の低さは不満だ。業務用では引く手あまただが、「店頭で名前を見かけることは少なくなった」と肩を落とす。
こうした中、行政サイドからも知名度を高めようとする動きが出てきた。赤穂化成は高知県室戸市から海洋深層水の供給を受けているが、高知県は14~16年度に国の補助事業を活用して飲用による健康面での効果を検証。検証結果は、今度の商品開発や商品販売戦略に生かしてもらう。
同事業の中間報告では、赤穂化成が販売する家庭向けの主力商品「天海(あまみ)の水」の飲用により、腸内の腐敗産物が減り善玉菌が増える傾向があったことが分かった。海洋深層水のブーム再燃のきっかけとなるか注目される。(鈴木正行)
◇
≪企業NOW≫
■食と地産地消の文化を未来に
赤穂化成は、和食や地産地消など食文化の継承にも力を入れている。
今年5月、関連会社の天塩(東京都新宿区)が、兵庫県赤穂市の赤穂化成本社内に、和食文化や伝統的な食文化、地産地消を未来に発信するスペース「天塩スタジオ 赤穂」を開設した。
赤穂化成と天塩を中心としたAKOグループは、海からの恵みをベースに海洋深層水や苦汁(にがり)、塩などを製造・販売。これまで培ってきた「海洋科学の開発技術」を基に新事業の展開を進めており、「新しい海洋文化」の創造をすることで広く社会に貢献することを目指している。天塩スタジオの設立も、こうした文化創造の一環だ。
スタジオ面積は135平方メートル、収容人数は最大40席。スタジオ内は、無垢(むく)の木材を多用しており、赤穂に伝わる差塩(さしじお)製法で作られる「赤穂の天塩」や「海洋深層水」を活用した料理教室を開催する。また、素材にこだわった塩づくり、みそづくり、豆腐づくりの体験教室や食育セミナーなども行う。キッチンのレンタルスペースとしても利用可能。営業時間は午前9時~午後5時(定休日は土、日、祝日)。
天塩スタジオは東京都新宿区の赤穂化成東京支店内にもあり、料理教室や体験セミナーなどを定期的に行っている。
◇
■赤穂化成
【設立】1971年11月25日
【本社】兵庫県赤穂市坂越329
【資本金】3000万円
【従業員数】200人
関連記事