破損したら2層目の切削刃が出現 大成建設が「多層チップビット」開発

 
トンネル工事で使用するシールドマシン。ゼネコン各社は、カッタービットの切削能力を維持する技術競争でしのぎを削る

【テクノNavi】

 玉石の多い礫(れき)層地盤のシールドトンネル工事ではカッタービット(刃)の損傷に伴う切削能力の低下が業界全体の課題だ。大成建設は丸和技研(福岡県直方市)と共同で、長寿命を実現したカッタービット「多層チップビット」を開発した。大成は刃の硬度を強くして割れ欠けを防ぐという発想を転換。切れなくなった先端を折り取れば、新品同様の切れ味となるカッターナイフの構造をヒントに製品化した。

 新技術は、損傷した刃の先端部分(チップ)がはがれ落ちると、内側から2層目の刃が出現。カッタービットの交換なしで長距離工事を可能にした。1層目のチップ形状は、従来品の「貼り付けタイプ」と「差し込みタイプ」の両方の利点を生かした「矢じりタイプ」とした。

 一般的なシールド工法では、チップに摩耗や欠損が生じた場合、カッタービットを交換するためだけに立坑を築造するなど手間がかかった。新技術なら交換作業が不要となり、工期の短縮化や立坑の構築費などのコストを削減できる。

 新技術の実用性を検証する際には、シールドマシンの掘削状況の再現に腐心した。当初はチップに真上からおもりを落として欠損形状を測定したが、「破壊の形状が実際の現場で起きた形状と違う」(森田泰司先端技術開発室長)ことが分かった。森田氏は「チップは衝撃力(打撃)で破損するのではなく、礫に押しつけられた圧力で破損するのでは」と考えた。そこで、チップに繰り返し荷重をかけて測定する新しい実験手法を考案し、課題を克服した。

 大成は、高松市上下水道事業管理者発注の「香西第1雨水幹線工事(1工区)」と、北海道空知総合振興局発注の「望月寒川広域河川改修工事(放水路トンネル)」で新技術を採用しており、さらなる普及を進める方針だ。