芳林堂書店 じり貧、脱却できず太洋社と共倒れ

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 都内などに9店舗の書店を展開していた芳林堂書店(現S企画)が2月26日、東京地裁から破産開始決定を受けた。

 芳林堂は人文系の書籍が豊富な書店として知名度を高め、1990年には関連会社が手掛けていた外商事業を引き継いで教科書や学習参考書などを学校や図書館、法人向けにも販売し、92年8月期は約70億円を売り上げていた。だが、90年以降は同業者や古書店の進出、ネット通販の新規参入などで競争が激化し、2003年に旗艦店だった池袋本店は閉店に追い込まれ不動産も売却した。

 08年に現社長が就任、書店売り上げの巻き返しを目指して相次いで出店を重ねた。新規出店を可能にしたのは出版取り次ぎの太洋社との蜜月関係が大きかった。太洋社は芳林堂の要請を受け入れ、新規出店時の書籍の支払い延期に応じていた。

 しかし業績は改善せず、14年に入ると大井町店と津田沼店を閉店。15年にはセンター北店、鷺沼店、汐留店も閉店し、事業規模は一気に縮小。同時に資金繰りが逼迫(ひっぱく)し、太洋社への支払いのめどが立たなくなっていた。

 太洋社からの支援の代償として、特別な仕入れ報奨金(売価ベースで1.8%)を受けることができなくなったほか、店頭の売り上げ減で、利益率の低い外商事業の売り上げ比率が拡大。これで有利子負債の返済や店舗の出退店の費用などに充てる手元資金が枯渇した。

 さらに、これまで支援を続けてきた太洋社が相次ぐ帳合変更で経営危機に陥ったことで事態が急変した。

 太洋社は16年1月に支払い不足分の約1億6000万円を支払うよう求めてきたが資金繰りに行き詰まっていた芳林堂は、約9000万円しか支払うことができなかった。このため太洋社は2月3日、書籍や雑誌など商品の供給を停止。芳林堂の店舗に新刊が入荷しない異常事態となった。

 追い打ちを掛けるように太洋社が自主廃業を発表し、芳林堂に在庫書籍の販売停止と引き揚げを要求。これを受けて事業継続の断念に傾いた芳林堂は「書泉」と書店事業の事業譲渡契約を締結。2月25日には外商事業の会社分割による新会社を設立、書泉と株式譲渡契約を結び役割を終えた。(東京商工リサーチ)

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【会社概要】芳林堂書店

 ▽本社=東京都豊島区

 ▽設立=1948年3月

 ▽資本金=2000万円

 ▽負債総額=20億3535万円

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 〈チェックポイント〉

 芳林堂が破産した後の3月15日、太洋社が破産を申請した。両社の破産申立書には芳林堂は「太洋社が突然、不足分の支払いを要求してきた」と、太洋社は「突然、芳林堂が破産した」と、お互いが元凶のような記載があった。

 多店舗の書店を取引先にして売り上げを拡大したい太洋社と、資金繰りを支援してくれる取次業者を求めた芳林堂。外部からは両社は蜜月関係に映ったが、蓋(ふた)を開けてみるとお互いの思惑しか見えてこない。

 相互補完を求めた2社は、それぞれじり貧から脱却できないまま、お互いの首を真綿で絞めるように共倒れした。(東京商工リサーチ常務情報本部長 友田信男)