「内向き」国内家電の意識変わる契機 シャープ“身売り”が象徴するもの

 
大阪市のシャープ本社(前川純一郎撮影)

 日本を代表する電機メーカーの一つであるシャープが、台湾の鴻海精密工業に買収されることになった。シャープの“身売り”は、デジタル化の進展や新興国メーカーの台頭で収益の確保が難しくなるなど、国内の家電産業が曲がり角を迎えたことを象徴する。外資の傘下で経営改革を成し遂げるモデルケースになれるか注目される。

 家電分野に450億円

 シャープが25日発表した調達資金の使途によると、家電分野では450億円を投資。人工知能を使ったコミュニケーションロボットや液晶テレビなどの新商品を開発するほか、白物家電では新興国向けの商品を拡充するため金型に資金を投じるという。業績悪化の主因は液晶事業の不振だが、家電もそれをカバーできるほどの収益を上げられていなかった。同社は「当社の主力事業として安定的な収益を生み出す事業体への変革をはかる」と、強化を打ち出した。

 今回、支援案が退けられた産業革新機構は「新しい商品を生み出す力がある」(幹部)として、シャープの家電を高く評価していた。

 機構はシャープの白物家電事業に、東芝など他社の同事業を統合させる案を打ち出していたが、日立製作所が「海外で強いところとの統合でなければメリットはない」(中村豊明副社長)と参画を否定したように、各社の白物家電を“結集”して海外の大手との競争を優位に運ぶ構想には、疑問符がついていた。

 日本の家電産業について、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は「技術的な優位性を失い、労賃が安くコストを抑えられる新興国メーカーにかなわなくなった」と指摘する。

 家電のデジタル化や製造技術の進歩により、商品の機能で他社と差別化しにくくなったほか、流通企業の存在感が増したことで価格下落も進み、安定収益を上げることが難しい状況になっている。

 外資の新風で改革

 ソニーやパナソニックも、経営資源を重点配分しているのは電子部品や企業向けのビジネスだ。

 不正会計問題で経営不振が深刻化した東芝は、白物家電だけでなく、テレビやパソコン事業も縮小や切り離しを模索。欧米でも、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は家電部門を中国のハイアールに売却。フィリップス(オランダ)もテレビなどを切り離し、サービスを含む医療分野を強化している。

 M&A(企業の合併・買収)助言のレコフによると、2015年の日本企業による海外企業へのM&Aの金額は約11兆円なのに対し、海外企業による日本企業へのM&Aは約1兆円にすぎず、外資の受け入れに消極的な日本企業の姿勢が見て取れる。

 だが、IHSテクノロジーの田村喜男シニアディレクターが「鴻海の積極的で迅速な経営判断は、シャープの企業文化と異なる」と指摘するように、外部から新しい価値観を取り入れることで、経営改革が進む可能性がある。シャープ再建が成功すれば、日本企業の内向きな意識が変わる契機になり得る。(高橋寛次)