シャープの決め手は何だったのか 巧みな“情報戦”既に負けていた革新機構
台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業と産業革新機構の両案の間で揺れたシャープ経営陣は25日、国内電機大手として初めての外資傘下入りという歴史的な決断を下した。その決め手となったのは何だったのか。
4年前のトラウマ
「鴻海の買収を受け入れます」。同日の臨時取締役会後、東京都港区のシャープ東京支社で、高橋興三社長は記者団にこう言い残して、足早に送迎車に乗り込んだ。
シャープは実は、4日に鴻海との交渉に重点を置くと表明した後も、革新機構と契約書づくりの協議を続けていた。そもそも同日の取締役会で決議したのは、鴻海と革新機構の両案の継続審議。それを高橋社長から連絡を受けた鴻海の郭台銘会長が、革新機構と同列でないと強調することを求めてきたのだ。
交渉決裂さえほのめかしてきた強引な要求を受け、高橋社長が会見で「リソース(人材)をより多く割いているのは鴻海の方だ」と発言。主力取引銀行幹部は「鴻海の要求と革新機構への配慮の板挟みになった上での表現」と指摘するが、鴻海優位の情勢はこうして固まった。
一方、シャープ側には破談に終わった4年前の出資交渉のトラウマがあった。鴻海はシャープへ9.9%出資するとした合意をほごにしたからだ。シャープの株価下落で合意した出資額に見合わなくなったのが理由だが、シャープOBは「鴻海は言いたい放題で、具体的な交渉になるとテーブルにつかないようなことが多かった」と不信の根底を説明する。
さらに、郭会長は5日に大阪のシャープ本社で交渉した後、報道関係者に対し太陽電池事業を切り離す考えを示唆し、雇用も「40歳以下はリストラしない」と語り、条件を微妙に変化させていた。
シャープは今月中旬、法務担当の幹部を台湾に派遣し、「雇用を守る」「一体的な再生を図る」「技術流出を防ぐ」などの具体的な条件を契約書に落とし込む作業に労力を費やした。鴻海が支援額のうち事前に1000億円を保証金として支払い、支援案が実行する“本気度”の担保とした。
象徴的な「全会一致」
革新機構の支援案は、機構を所管する経済産業省出身者や鴻海に不信感をぬぐえない社内取締役に支持された。
一方、支出総額で上回る鴻海案は、社外取締役を中心に「これを蹴れば、シャープに損失を与えたとして善管注意義務違反に問われるリスクがある」と支持が広がった。
そこで、出資規模こそ3000億円規模と鴻海案と比べると見劣りする革新機構は、新たに2000億円の融資枠を設定。加えて主力取引銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀に新たな金融支援のほか、既に両行が保有する2000億円分の優先株をほぼ無償で消却を求めるなど「支援効果は1兆円」と巻き返しを図った。
しかし、革新機構は、鴻海とみずほによる巧みな“情報戦”に既に負けていた。
4日の会見を受けた報道で流れができていたほか、鴻海側が示唆したとみられる善管注意義務違反の可能性が、多くの取締役の判断を左右したことは想像に難くない。
革新機構は注意義務違反には当たらないとして、取締役の説得に奔走したが、遅きに失した。「全会一致」という結果が、両者の戦術の差を雄弁に語っていた。
高橋社長は25日、社内への訓示で、「郭会長の即断即決、好機にリスクを取る姿勢は素晴らしい」と持ち上げたという。鴻海は革新機構との争奪戦に勝ったが、シャープが勝者になれるかは、今後の経営再建の成否にかかっている。
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