生産者の減少に直面する農業の分野で、電機メーカーなどが先端のデジタル技術を使って効率化を図るための取り組みを活発化させている。人工知能(AI)を活用して土壌の状況から水や肥料の量を助言したり、作物の画像で〝うまみ成分〟の量を推定したりする技術が開発されており、新しい生産者が参入しやすい環境整備につながるかが注目される。
「誰もが正確、効率的に、かつムダなく農業ができる社会の実現を目指している」
今月15日、カゴメとNECがAIを活用して加工用トマトの営農支援を行う共同出資会社を設立することを発表したオンライン記者会見で、新会社の最高経営責任者(CEO)に就任するカゴメの中田健吾・スマートアグリ事業部長はこう強調した。
新会社名は「ディクサス・アグリカルチュラル・テクノロジー」で、両社の技術を活用し、収益性の高い営農を促進する。資本金は3億円程度で、カゴメが66.6%、NECが33.4%を出資する。
提供するサービスでは、衛星写真やセンサーを使ってトマトの生育状況や土壌の状況を可視化した上で、熟練者のノウハウを習得したAIが水や肥料の量、投入時期をアドバイスしたり、カビなどの病害の発生リスクを予測したりする。ポルトガルで行った実証実験では平均より2割少ない肥料の量で収穫量が3割増えたとしている。
両社はポルトガルやスペインなど7カ国で事業に取り組んでおり、7月に新会社をポルトガルに設立し、営業活動などを強化する。主に欧米、オーストラリアでの事業展開を加速させ、将来的には日本での本格導入も検討する。令和8年には売上高30億円を目指す。
国内では農家の担い手不足が深刻度合いを増している。農林水産省によると、主な仕事として自営農業に従事している人の数は3年で平成27年に比べ約45万5000人減の約130万2000人(推計)となり、平均年齢は67.9歳(同)に達した。こうしたことから、先端技術を農業に生かす取り組みは広がりを見せている。
伊藤園と富士通は、茶葉の画像をAIで解析して茶摘みの時期を判断する技術を開発した。約4000枚の茶葉を撮影し、うまみの指標の一つであるアミノ酸や繊維の量も調べて画像と成分の組み合わせをAIに学習させた。茶葉を撮影すればその場でAIがアミノ酸などの推定量を示し、適切な茶摘み時期の判断につなげることができる。
現場では茶葉の手触りなど熟練の経験で判断したり、数百万円する機器で成分を調べたりするのが一般的で、「茶農業の新規参入のハードルになっている」(富士通担当者)。今春から主要産地の静岡や鹿児島などで試験運用に乗り出し、正確性や実用性の検証、AIの追加学習を行い、令和5年からの本格展開を目指す。
日立製作所は子会社がオーストラリアで、バナナ園に対して、バナナの成熟時期予測などのシステムを提供。別の子会社は国内で農作物の収穫、輸送の過程で生産者名、作付け作物などを自動入力し、関係者内で共有されるシステムで負荷軽減を図っている。
三菱電機はため池などの農業水利施設にブイ型のセンサーを浮かべて遠隔で水面の状況を監視するサービスの提供を8月に開始する予定だ。人手不足が指摘されているため池管理の効率化を図って氾濫への備えを整え、防災・減災につなげる狙いがある。
(高久清史)