公益性とプライバシーのどちらに軸足を置くべきか-。交流サイト(SNS)のツイッターで投稿された過去の逮捕歴の削除を巡り、最高裁が24日、削除を命じる判決を言い渡した。速報性や拡散性が高いツイッターの特徴を考慮して、インターネット検索大手「グーグル」を巡る最高裁判断よりも、削除に対するハードルを下げた形だ。専門家は「同種の投稿削除への追い風になる」と分析する。
グーグルを巡る平成29年の最高裁判断では、グーグルは「ネット上の重要な情報流通の基盤」とした上で、事実の性質や内容▽事実の伝達範囲と具体的被害の程度▽当事者の社会的地位や影響力-などを考慮して、公表されない利益(プライバシー)が公表する理由(公益性)より「優越することが明らか」な場合に削除できるとした。
これに対し、今回の最高裁判決では、グーグルの基準で示された「優越することが明らかな場合」ではなく、「優越する場合」に削除できると表現した。「明らか」という表現を使わなかったことで、グーグルよりも要件は緩まったといえる。
こうした判断の枠組みを示した上で、今回の訴訟で問題となった、男性の逮捕についての投稿について、個別に検討した。
男性の逮捕から2審の審理終結時点までに約8年間が経過して刑の効力がなくなった▽ツイート(投稿)で引用した元記事は削除されており公共性は小さくなっている▽逮捕当日に投稿されており、長時間閲覧可能な状況にあることを想定していない▽男性は一般人-などの事情を挙げ、削除できるとした。
ネット上に公開された個人情報は「デジタルタトゥー」と呼ばれるように、完全に削除するのが困難だ。欧州ではプライバシー保護の観点から、一定期間たった情報は削除されるべきだとする「忘れられる権利」についての法整備が進むが、表現の自由を重視する米国では、削除に慎重な姿勢をとる傾向がある。
ネット上の表現の自由に詳しい九州大の成原慧(さとし)准教授(情報法)は「判決は、ツイッターをグーグルのような『ネット上の情報流通の基盤』とは区別した。最高裁は、検索エンジンには特別に慎重な判断をしたとも言える」と指摘。
「今回は個別の投稿についての事例判断という面もあるが、SNSの投稿について削除が認められやすくなるだろう」と話した。(原川真太郎)