有観客の大規模イベントが感染対策をした上で開催されるようになってきている。油断は禁物ながら、コロナ後の生活様式を前向きに探っていきたい。
◇
東南アジア「3強」
『東南アジア スタートアップ大躍進の秘密』中野貴司、鈴木淳著(日経プレミアシリーズ・990円)
米国や中国を追い上げる勢いをみせる東南アジア諸国のスタートアップ事情をリポート。特に「3強」といわれるシンガポールのグラブとシー、インドネシアのGoToを中心に、成長の過程と要因を伝える。
グラブは配車サービス、シーはネット通販を主力とする。GoToは配車大手ゴジェックと、通販大手トコペディアが統合してできた新興企業だ。この3社の共通点は、日常生活に必要な多様な機能を集約した「スーパーアプリ」を手がけていることだ。急増する東南アジアのスマートフォン利用者のニーズを一手に引き受けることで急成長を遂げた。
日本企業の出資や、シンガポール国立大学の起業家育成および起業支援プログラムなどによる「起業エコシステム」も着実に確立しつつある。従来、この地域を支配していた財閥や国営企業にも変革の兆しが見られるという。これらの相乗効果で、東南アジアスタートアップの成長がさらに加速するのかもしれない。
◇
データで市場戦略
『ナイキ 最強のDX戦略』白土孝著(祥伝社・1870円)
米国発の巨大スポーツブランド、ナイキ。コロナ危機を乗り越え、株価が過去最高値をつけるほどの急伸を見せた。その要因となった同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略を読み解く。
ナイキのDXは、自社アプリによるマーケティングが中心だ。通販だけでなく、トレーニングプログラムなども提供。特に、マニアを対象に限定スニーカーの情報提供や販売を行うSNKRSというアプリが人気を博している。
SNKRSには、AR(拡張現実)技術を使い、ストリートで探しものをする機能もある。そのゲーム性がユーザーをひきつけ、アプリから離れられない状態を作り上げた。ナイキ側はユーザーのデータを集めることができ、市場戦略に活用できる。
直近では「NFTスニーカー」を発表し話題を集めた。ナイキのDXはいずれも「消費者と感情的につながる」ことをめざす。これからあるべきDXを指し示しているのではないか。
◇
特異な天体を検証
『オウムアムアは地球人を見たか?』アヴィ・ローブ著、松井信彦訳(早川書房・2750円)
元ハーバード大学天文学科長の天体物理学者が、2017年10月に太陽系内を通過した特異な天体についての、大胆な自説の検証過程を紹介する。「オウムアムア」と名付けられた天体は、地球外文明による装置の残骸だという説だ。
太陽系内にいた11日間分の観測データにより、25光年離れた恒星ベガの方向からやってきたオウムアムアの、葉巻かパンケーキのような形状が推測された。そしてその軌道は太陽の重力の影響を受けた計算上のものからそれていた。
著者は他の証拠も合わせて、オウムアムアは、太陽光をはね返して推力にする「帆」のような人工物ではないかとの仮説を立てる。
著者の説は、2021年に発表された「天体から剝がれ落ちた窒素の氷の塊」という説が有力になったため現在は棄却されている。
だが、たとえ突飛(とっぴ)な仮説でも、それを精査する努力は無駄にはならないはずだ。あらゆる可能性を試すことが、科学と文明を発展させてきたのだから。