イスラム圏への輸出に欠かせない「ハラル認証」を取得する動きが活発化している。新型コロナウイルス禍で蒸発したインバウンド(訪日外国人)需要を現地進出で補うほか、新たな顧客獲得を目指して海外に活路を見いだす企業も出てきた。取得意欲の向上を商機ととらえた輸出専門商社も登場した。
ハラルとはイスラム教徒(ムスリム)の戒律に従った生活全般に関わる考え方。ムスリムは豚肉や豚由来の原材料、アルコールなどが含まれた商品を一切口にできない。ムスリムを取り込むには原料から生産、流通、飲食店の調理場まで戒律にのっとり安全であることを保証するハラル認証を取得する必要がある。
「ムスリムは甘いものを好むという。チャレンジする価値はある」
洋菓子・パン製造販売の「どさんこエナジー ニシムラファミリー」(北海道苫小牧市)は4月に東京で開催された展示会に参加。坂本頼彦事業部長は、マレーシアへの輸出が決まった看板商品の洋菓子「ユカたん」を手にこう語った。同社にとって初の海外進出となるだけに期待は膨らむ。
転機は昨年10月。マレーシアで販売するハラル商品を探していたバイヤーに、ハラル認証取得を持ちかけられた。これを受け工場に専用ラインを設置。他商品と混ざらないように徹底管理することで今年1月に認証を取得、6月からのマレーシア販売に向け初回2400個を出荷した。シンガポールへの輸出にも挑む。
背中を押したバイヤーは、ディスカウント店「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)グループのマレーシア法人の福田貴史営業本部長。「日本産ハラル商品はマレーシアに多く入っていない。商品を増やせば売れる」と判断、日本企業との取引拡大に余念がない。
そのために声をかけたのがハラルビジネスに詳しいアセットフロンティア(東京都港区)の島居(しますえ)里至代表取締役だ。日本唯一の「ハラル和食専門輸出商社」を名乗り、ハラル商品の輸出に注力。ハラルビジネスに乗り出す企業を支援するハラル・ジャパン協会と企業の発掘を進めている。
島居氏の目利きにかなったのがニシムラファミリーであり、有機栽培した魚沼産こしひかりに特化し生産から加工まで手がける「ごはん」(新潟県津南町)だ。大島知美代表取締役は「ハラル認証を取得すれば世界のどこでも販売できる」と市場開拓に意欲をみせる。PPIHマレーシア法人とは令和4年1月からハラル商品の取引を開始。独自技術で実現した賞味期限2年を武器に、アセットフロンティアとコラボした新商品も投入する。
ムスリム市場への輸出に活路を見いだそうとするのは両社だけではない。アセットフロンティアの呼びかけで認証を取得した企業は3年で約30社、今年はすでに30社に達した。
農林水産省によると、3年の農林水産物・食品の輸出額は1兆2385億円となり、初めて1兆円の大台に乗せた。政府は12年に日本産食品の輸出を5兆円に増やす目標を掲げる。ハラル・ジャパン協会の佐久間朋宏代表理事は「ハラル認証を取得できれば、海外進出の道が開ける。自分には関係ないと思わないでほしい」と話している。(松岡健夫)