冷めない韓流熱、ビザ求め行列 旅行需要は依然低調

    6日、東京都港区の韓国大使館領事部で、観光ビザ申請のため早朝から列を作る人たち
    6日、東京都港区の韓国大使館領事部で、観光ビザ申請のため早朝から列を作る人たち

    韓国政府は6月から、新型コロナウイルスの水際対策などでとりやめていた個人観光客向けの査証(ビザ)発給を日本各地の領事館で再開した。東京や大阪など都市部では、当初、申請者が殺到して受け付け方法を変更するなど混乱。「渡航日にビザが間に合わないかもしれない」と困惑する声も上がる。ただ、旅行業界ではビザのハードルだけでなく、燃油代や航空券価格上昇などもあり、韓国を含め海外旅行需要はまだ低調という。

    2年ぶり恋人会いに

    「ソウルで出会った韓国人の彼ともう2年以上会えていない。やっと7月に渡航できる」。埼玉県所沢市の病院職員の女性(25)は6日午前、東京都港区の韓国大使館領事部でビザ申請を済ませ、笑顔を見せた。初日の1日は千人近い人が詰めかけ200人ほどで受付が締め切られたため、女性はこの日改めて始発電車で出向いたという。

    列には、たびたび韓国に旅行して食事やエステを楽しんでいた40代女性ら観光客のほか、ビジネスマンの姿も。韓国の取引先に今月出張予定というIT企業に勤める男性(31)は「観光ビザ申請の混雑はニュースで見たが、ビジネスのビザも出張に間に合うだろうか」と不安そうに列を見つめた。当初、徹夜して並ぶ人が出るなど混乱が起きた東京の大使館領事部は急遽(きゅうきょ)1日の受付人数を制限し、大阪総領事館はインターネットによる訪問予約制に切り替えた。

    日韓両国は20年3月に事実上の入国禁止措置をとるまでは、相互の国民に90日以内の短期滞在にビザ取得を免除し、旅券のみで入国を受け入れていた。韓国観光公社によると、近年はドラマやK-POPなど韓流ブームが追い風となり、若年層を中心に民間交流も拡大。19年の日本人観光客数は約327万人に上っていた。

    観光公社の過去の調査では、日本人客の中には歌手や俳優のコンサート、イベント参加のため、年数回~10回以上渡航する熱烈な韓流ファンもいたが、コロナ禍で往来が止まった。観光公社は韓流ファンをつなぎとめようと、10~30代女性を主なターゲットとして現地の歌手や俳優が参加する無料のオンラインイベントや文化体験を各地で開催。新たに創設した「韓国旅検定」の登録会員は女性を中心に2万3千人に上る。

    今回の観光ビザ再開にあたり、「時間と行動力がある韓国ファンの女性たちが、旅行再開に動いた」(東京支社担当者)とみられている。

    日本行き需要「爆発」

    一方、韓国では日本食やアニメ人気を背景に日本への旅行がブームとなり、18年には約753万人が日本を訪問した。ところが翌19年は日韓関係の悪化や不買運動が影響し約3割減少した。

    その後の20年3月、日本政府が新型コロナの水際対策強化で、中国と韓国からの入国を制限。日本政府の短期滞在ビザ免除や発行済みビザ効力の停止などの措置に韓国政府が反発し、同様の対抗措置をとるなど両国関係は一層冷え込んでいった。

    コロナ後を見据え各国で外国人観光客の受け入れ再開が進む中、日本政府は6月10日から訪日外国人の受け入れを一部再開。しかし、1日当たりの入国者数を上限2万人(19年は同平均14万人)に規制し、添乗員付きのパッケージツアー客に限るなど慎重に緩和を進めている。日本旅行の〝狭き門〟に、韓国の旅行業界では、2泊3日約5万円台の特価で販売した大阪・神戸ツアー1365席が発売2時間で完売するなど「日本旅行需要が爆発」(韓国紙ヘラルド経済)とも伝えられている。

    韓国観光公社東京支社の鄭辰洙(ジョン・ジンス)支社長は、韓国の若年層はパッケージ旅行よりも日本の地方への個人旅行を好むとして、「日韓とも、インバウンド(外国人観光客)に占める相互の国民の割合が高い。夏に向けて、ビザ免除の試行や入国枠を別に設けるなど受け入れ拡大が進めば、両国の観光振興につながる」と期待を語った。

    ハワイ、欧州の方が…

    韓国の観光ビザ申請には航空券の予約が必要だが、ビザ発給まで3週間ほどかかるともされている。こうした事情から、韓国旅行を計画する人はまだ限定的なようだ。

    コロナ禍で縮小していた日韓の航空路線は今後拡大する見通しだが、「航空便も座席数もまだ少なく、燃油サーチャージなど価格も高めになっているため、現状では観光ビザ再開による大きな変動はない」(大韓航空の担当者)。ソウルの金浦空港や釜山の金海空港などを管轄する韓国空港公社は、国際線の需要がコロナ前の水準に回復するのは23~24年になると予測している。

    一方、日本の観光庁によると、主要旅行会社の21(令和3)年度の国内旅行の取扱額はコロナ前の19年度比49・8%まで回復したものの、海外旅行は同比4・1%にとどまる。旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の広報担当者は、「ビザ取得がネックになる韓国は予約につながるかまだ不透明だが、5月以降はコロナで控えられていたハネムーン需要でハワイや欧州の予約が伸びた」と話している。


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