1チーム15人制で行われる通常のラグビーと比べて選手個人のパフォーマンスが大きく影響するとされる7人制ラグビーだが、ランキング上位のチームほど個人プレーよりも総合的なチームパフォーマンス力が高く、とくに攻撃力よりも防御力に違いがあることが、名古屋大学総合保健体育科学センター体育科学部の佐々木康教授らの研究で分かった。研究論文は、デジタル領域の学術論文を掲載する電子ジャーナル「Journal of Digita Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
パフォーマンスをKPIとして解析
通称「セブンズ」と呼ばれる1チーム7人制のラグビー。ルールは15人制と同じだが、試合時間が前後半40分間で合計80分間に及ぶ15人制に対して、前後半7分で合計14分と短く、1日に数試合が可能であることから2016年のリオデジャネイロ五輪以降正式種目として採用された。
佐々木教授によると、五輪などの世界大会に出場するチームはかつて地域予選で選出されていたが、現在は試合内容をよりハイレベル化するために、直近の複数の国際大会の結果から与えられるランキングポイントの上位国+地域枠という方式が採用されるようになったという。そのため「ランキングに寄与するパフォーマンスの解析が、大会出場へのKPI(重要業績評価指標)として重要になっている」(佐々木教授)との見方を示す。
グラウンドの面積は変わらず、試合時間の短縮化とプレイヤー数が制限されるため、「ワン・オン・ワン」(1対1)の展開も多く、15人制よりも個々のボール保有局面に対してより客観的な分析が可能になる。そこで佐々木教授らはチームの行動を「ネットワークシステム」と捉え、時間・空間要因を含む選手の行動に着目。国際競技統括団体ワールドラグビーが公開した2011~20年までの「ワールドラグビーセブンズシリーズ」の4074試合の縦断的データをもとに、ランキング上位~下位におけるチームの戦術的特徴の違いを解析した。
力の差は攻撃よりも防御に
攻撃力を「得点率」(自分のトライスコアに要した時間:短いほど攻撃力が高い)とし、防御力を「失点率」(相手のトライスコアに要した時間:長いほど防御力が高い)としてランキング1~8位までのチームのゲーム展開を分析した結果、1位のチームの得点率は50秒以内、2~4位は66秒以内、5~8位は72秒以内で、1位と8位の間に20秒ほどの開きがあった。一方、1位のチームの防御率は124秒以上、2~4位は102秒以上、5~8位は82秒以上と、1位と8位の間で42秒もの開きがあった。この結果について佐々木教授は、攻撃力以上に「防御力の高さがランキングに大きく影響する可能性がある」と分析している。
また、各チームについてより詳細なデータを抽出し、ネットワーク分析によって累積チームランキングとチームパフォーマンスの内容にどのような特徴があるかを分析した。その結果、4位と5位のチームでは、クリーンブレイク(相手に触れられずディフェンスラインを突破する)の回数や個人総走行(ボールを保持しての走行)の距離が上位チームを上回るなど、特定の個人の成績が目立つ傾向が浮かび上がった。
高いパフォーマンス力をもつプレイヤーが存在するにも関わらず、チームとしては中位にとどまるという結果について佐々木教授は、「上位3チームには得点できる選手が多く、個人のスキルに左右されないチームパフォーマンスを持っていると言えるかもしれない」との見方を提示。「下位チームが上位に入るための方法として個々のパフォーマンス(4位と5位の特徴)を向上させる必要があるかもしれないが、さらに上位を目指すためには、(全体として)より多くのハイパフォーマンスな個人が必要」だとし、少数精鋭といわれる7人制ラグビーも「個人とチームのスキルの融合」が勝敗のカギとなるとした。