「ロレックス」 すたれない愛されブランドの“ツンデレ”感

    「ブランド」を語る上で、いつも気になるのはロレックスです。“真打ち”という言葉がしっくりくる存在感で、「ブランド」ビジネスのエッセンスを体現しているように感じさせてくれます。

    ヴィジュアルアイデンティティも長期的な運用(写真Pixabay)
    ヴィジュアルアイデンティティも長期的な運用(写真Pixabay)

    そもそも誰もがスマホを持つ時代に、腕時計、まして究極の非デジタル製品である機械式時計を中心にラインアップするブランドが、変わらずというよりもますます市場の熱い支持を得ているのは驚くべきことです。

    今やロレックスが代表格ではありますが、スイスを中心とする高級機械式時計ブランド全般に勢いがあり、パテックフィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマピゲなどなどマニファクチュールと言われる、自社一貫で機械式時計を製造できるより技術力と歴史の古いブランドに広くファンが存在します。

    現在の、機械式高級時計の隆盛に至るまでには、正確で安価な日本製クオーツ時計が腕時計市場を席捲した時代があり、スイス勢苦肉の生き残り策として、高級品に特化してきた歴史があります。むしろ今やグランドセイコーなどで、日本の時計会社も高級機械式腕時計市場に注力するに至っているわけですから、世の中分からないものではあります。

    スマホ時代に機械式高級腕時計隆盛の不思議

    それにしてもスマホ時代になって、腕時計で時を知るという機能性が生活の必須要素でなくなって以降、むしろ年々、高級時計の抽象性、記号性、文化性に磨きがかかっていっているように思います。ちょっと大げさに言えば、人類が手に入れた加工技術の粋によってのみ可能な、問答無用で精緻で精巧を感じさせてくれるメカニズムを手元で愛でる、腕で感じるという楽しみは、ある意味究極の嗜好品とも言え、芸術作品にも通じる豊かさを与えてくれます。

    それだけに、誰もがこんな道楽や酔狂とも紙一重の高額品に共感を持つかと言えばもちろん“さにあらず”で、あからさまに関心の欠片も示さない人も多く、大富豪であろうと、あえての安価なデジタル時計にこだわりを持つ人もおり、まさにそこには個人の価値観です。と言うよりもさらに、今や腕時計が機能面での必需品でないだけに、一層腕時計はその人の価値感を機微に表象するようにさえ感じます。

    「何を食べているかを言ってみたまえ、君がどんな人かを言ってみせよう」という言葉はフランスのグルメとして有名だったサヴァランという政治家のものだったと思いますが、腕時計を見てその人をプロファイリングすることは別にシャーロックホームズでなくてもできてしまいそうなのです。

    圧倒的なモノの良さと過剰な記号性

    それにしてもとりわけロレックスの記号性の強烈さ。つまりブランド力のすさまじさです。

    とにかく製品自体に圧倒的な説得力があることに間違いはありません。究極の切削研磨技術があるゆえの、金属とは思えぬ滑らかな付け心地に、スポーツ、プロフェッショナルモデルなどヘビーデューティーゆえのかなりの重量をまったく感じさせないバランスの良さ、見えない部分であるメカニズムの高品質も疑いなく感じさせてくれます。そして何より、古くなればなるほど使い込めば使い込むほどに愛着が増すばかりで、飽きる気配さえ感じさせない黄金比を感じさせるフォルム、デザインの秀逸さは奇をてらった部分がないだけに、リリースされるモデルは多くないものの、出ればどのモデルもその後の他社リファレンスになるような本質性の表現にこそこのブランドの真骨頂があるように思います。

    しかしながら「素晴らしきことは良きことかな」と素直にいかないのが世の中のつらいところで、ロレックスをつけて外出することは、その過剰なまでの記号性ゆえに、ただ“物が良いからしています”では通じない場面を往々生み出します。

    「この若造が分不相応なものを身に着けやがって」「あれ。この人結構見栄っ張りなのかしら」などなど、本人は至って文化的、芸術的、さらには技術的好奇心で奮発していても、そんな価値観に理解がない人からすれば、そんな時間などという今やありふれたものに大枚をはたく人間など、どうせ見栄が動機に決まっているという見立てから逃れられないのです。

    もっとうがった局面としては、「ふ、この小僧(と言っても良い中年だったりしますが)時計好きとは聞いていたが、ロレックスごときで大満足とはな。自慢は私の独立時計士ユニークピース(一点もの)ものぐらいになってからして欲しいね。」など、鬱陶しいことこの上ない御仁さえこの広い世の中には棲息しているのです。あーめんどくさい。

    つまり、どんなに自身の満足だけを目的にロレックスを身につけていても、それを目ざとく見つける人からの一方向的な評価からは逃れられないわけです。

    特にオンビジネスでは、気心知れた相手であれば、「あぁ、彼は時計好きだからね」と理解もあるでしょうが、初めてかつ次は他の担当者かもしれない一期一会の方との商談で、眼光鋭く寡黙さ際立つその視線が腕にいく瞬間にプレッシャーを感じないとすれば、それはそれで機微に疎過ぎるいというものです。


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