ひっそり頑張る本格派 福島・伊達のミニSL

    満開の桜の中を走るミニSL「さくら1号」。桜の時期は訪れる人が特に多くなる=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)
    満開の桜の中を走るミニSL「さくら1号」。桜の時期は訪れる人が特に多くなる=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)

    福島県伊達市で、昭和末期に製造された小さな蒸気機関車(SL)が走り続けている。毎年春から秋までの期間限定で走るSL列車は、公共交通の鉄道ではなく遊園地などの乗り物扱い。鉄道ファンが殺到することはないものの、全国的にも珍しい存在。煙を上げて汽笛を鳴らし走る姿は郷愁を誘い、遠方から繰り返し訪れるマニアもいる。

    ナローゲージ

    SL列車が走るのは、やながわ希望の森公園(伊達市梁川町内山)。阿武隈急行のやながわ希望の森公園前駅から約300メートル離れたSL西口駅と公園入り口のSL東口駅までの約800メートルを、ミニSL「さくら1号」が約6分で結んでいる。公園の列車といっても自然の中を走るため、見た目は普通の鉄道だ。

    線路幅はJR在来線の1067ミリより狭い762ミリの「ナローゲージ」と呼ばれるもの。SLは重さ5・1トン、全長4・45メートルとかわいいサイズ。ナンバープレートは「B62418」で、動輪が2つあることを意味する「B」と、運転を開始した35年前の「昭和62年4月18日」にちなんでいる。

    ミニSLが牽引するのは24人乗りの客車3両だ=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)
    ミニSLが牽引するのは24人乗りの客車3両だ=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)

    牽引(けんいん)するのは定員24人の客車が3両。両方の駅に転車台があり、SLの方向転換も見られる。運転日は4~11月の主に土、日曜日。午前10時40分から午後3時まで5往復し、料金は片道大人300円、子供200円で往復料金もある。雨が降り客車に吹き込んだり、線路がぬれて車輪が空転する恐れがある場合は運休になる。

    駅に到着後、列車から切り離されたSLは転車台で方向転換を行う。これも人気のシーンだ=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)
    駅に到着後、列車から切り離されたSLは転車台で方向転換を行う。これも人気のシーンだ=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)

    子供たちの笑顔

    運転担当は鈴木孝昌さん(67)。会社を定年退職後に仕事を探していた鈴木さんは、ボイラー技士の資格を持っていたため、シルバー人材センターでこの仕事を紹介された。鉄道事業でないため運転資格は不要だが、石炭のくべ方やカーブの入り方など学ぶことはたくさんあった。「細かく感覚的なことが多かった」と鈴木さんは振り返る。

    小さくても中身は本格派。たき口の中では石炭が赤々と燃え続けていた=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)
    小さくても中身は本格派。たき口の中では石炭が赤々と燃え続けていた=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)

    鉄道への興味は特にはなかった鈴木さんだが「子供たちの笑顔を見たらやめられない」という。車掌の菅野博美さん(74)も「楽しい仕事。体力の続く限り続けたい」と張り切る。

    子供3人と乗りに来た福島県川俣町の女性(32)は「音やにおいにびっくり。本物っていい」と話した。

    運営は綱渡り

    子供に人気のSL列車だが、1シーズンの利用者は平成26年の9100人をピークに減少に転じた。伊達市は令和元年10月の台風19号による被害が甚大で、同公園は2年6月まで災害ごみの集積場になり閉園。新型コロナウイルスの感染拡大も追い打ちをかけた。

    咲き誇る花の中を煙をはいてミニSL「さくら1号」が行く=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)
    咲き誇る花の中を煙をはいてミニSL「さくら1号」が行く=福島県伊達市(芹沢伸生撮影)

    一昨年の利用者は2200人まで落ち込み、昨年は4700人まで回復したが先行きは不透明。一方、5往復の運行に80~100キロ必要な石炭の価格は高騰の一途だという。運行に携わるスタッフは鈴木さんと菅野さんだけ。スタッフの数も綱渡り状態だ。2人は「体調管理には気を使う」と口をそろえる。

    関係者の努力で走り続ける小さなSL。応援の意味も込めて乗りに行くのもいい。年配者は懐かしい気分に、SLを知らない世代もワクワクできるのは間違いない。(芹沢伸生)


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