デジタル羅針盤

    顧客目線の「デザイン思考」が次世代の糧

    自社の製品・サービスを快適に使ってもらうためには、「UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン」が不可欠だ。デザインというと、ホームページや商品購入の画面などの見た目や操作性をイメージする。UXデザインは、より広い概念であり、製品やサービスを通じた顧客体験の全てを設計することと定義できる。例えば、商品の選定から購入・受け取りに至るまで、顧客の購買行動に関する一連の手続きやプロセスを簡潔で便利にすることだ。

    デザインには行動心理学に基づく原理原則が存在する。例えば、どのようにすれば商品を強く印象づけられるか、どうすれば購入まで誘導できるかなどだ。SNS(交流サイト)で「映え」を狙う写真も、理論を元に実践することでナイスショットになる。1回限りの購入ではなく、顧客をファンにしてリピート購入してもらうことにも役立つ。

    理論だけではだめで、実践するための感性を磨くことも必要だ。顧客の声を集めて強調すべきポイントを考え抜く。提供側の視点ではなく、顧客目線で情報収集し導線の設計、実践、改善を繰り返す。このための方法論の一つが「デザイン思考」になる。

    米国の大手IT企業の中には、広義のデザインを学んだバックグラウンドを持ち、成功を収めてきた創設者も少なくない。日本のITベンチャー企業の経営者にUXデザイナー出身者も現れ始めたが、日本企業全体からすると多くはない。美術やコンピューター工学を教える学校はあっても、UXデザインを体系的に指導する教育機関は少数だ。

    成功体験を持つ企業や経営者ほど、過去の経験に引きずられがちだ。だが、時代の変化は早く、成功体験が新たな事業展開の妨げになることもある。これからの事業を考えるのであれば、若い世代の感性を生かしたい。若手がデザインの理論を学び、経験のある社員の持つ知恵を生かしつつ、実践を繰り返すことで次世代の事業展開が期待できる。

    (デジタル・コネクト代表取締役 小塚裕史)

    こづか・ひろし 京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、平成31年にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタルトランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。57歳。兵庫県出身。


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