政府は国内企業の蓄電池生産を後押しするため、2030(令和12)年に600ギガワット時の生産能力を確保する方向で、補助金などを拡充するという。このニュースを聞いて、筆者は違和感を覚えた。というのは、蓄電池の数ある用途の中で、量的に多いのは電気自動車(EV)向けである。自動車メーカーに対して電動車の比率を高めることにつながる規制がない中、電池投資が活発になるのだろうか。
日本の自動車用リチウムイオン電池は中国などと比べて出遅れているといわれる。なぜかといえば2つの理由があると思われる。
1つは、EV並びにリチウムイオン電池に関する国家戦略が弱いこと。中国政府は、ハイテクで経済と社会の発展を牽引(けんいん)する「デジタル中国」を目標に掲げており、EVメーカーおよびリチウムイオン電池メーカーの育成に積極的に取り組んできた。金融機関も後押しをしている。
もう1つは、目標を達成するための厳しい推進政策がないことである。これは新エネルギー車(NEV)規制のことで、EV、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の生産が年度ごとの目標に達成しなければペナルティーを支払わなければならないというものだ。米カリフォルニア州が実施している規制を参考にして導入したものである。また、欧州では二酸化炭素(CO2)規制などさらに厳しい政策を実施してきた。
つまり、欧米中は自動車に関する厳しい規制があることから、EVもしくはFCVに注力して生産・販売しなければならず、実現のために電池メーカーに多額の投資を要請している。日本には規制がなく、自動車メーカーから電池メーカーへの要請は少ない。電池メーカーの自主性に任せているため投資が進まない。やはり規制が先ではないだろうか。
(日本電動化研究所代表取締役 和田憲一郎)