HRVが個別測定に使える可能性
モニタリングの手法として用いたのが、自律神経系の変動を体に負担を与えずに測定できる心拍数変動(HRV)指標だ。循環器疾患の診断やストレス、居眠りや情動など精神状態の計測にも用いられ、最近の研究では認知機能との関連性も報告されている。実験では独自に開発した装着可能な測定器を使い、HRV指標とeスポーツによる認知機能向上との関連性を調べた。
20人の被験者を10人ずつ「訓練群」と「非訓練群」に分類。それぞれに認知機能を測定する「ストループテスト」を実施する前に、訓練群はレーシング系のeスポーツ課題である「マリオカート8デラックス」を1日1時間以上、週に5日以上、6週間継続して行った。
その結果、最後のSTapp(アプリ版のストループテスト)で計測された指標(反応時間)が訓練群で有意に改善しており、萩原悟一准教授らの研究報告と同じく、認知機能の一時的な向上を示唆する結果が得られた。
特に、改善度合いが大きかった上位10人と、それ以外の10人のHRV指標を群間比較したところ、上位10人では「SDNN」と「RMSSD」という2つの副交感神経系の指標が有意に高いことが分かった。
山川准教授らは「これらの指標の変化は、eスポーツにより脳の前頭葉が活性化され、抑制機能が高まったことによるものと推察できる」と指摘。「さらに研究が進めば、eスポーツによる認知機能が向上するタイミングを検知・予測するウェアラブルシステムの開発も期待でき、ひいてはゲーム依存の予防やeスポーツの応用分野の拡大に寄与する可能性がある」としている。
研究は山川准教授のほか、九州産業大学人間科学部スポーツ健康科学科の磯貝浩久教授、同大人間科学部の萩原悟一准教授、熊本大学大学院の久恒和希氏、大槻寿英氏と共同で進められた。