80余年前にBMWが創出した究極のアナログ・コンピュータ制御機構

BMWの前身は航空エンジンメーカー

数ある自動車メーカーの中でも、ひときわ運動性能と操縦性に拘り、ゆるぎない設計思想と信念を抱いて開発・生産を行っているのが、ドイツのBMWといえるだろう。

オリジナルのBMW801で飛行可能な世界唯一のフォッケウルフFw190 A-5。旧ソ連レニングラード近郊の湿地帯に不時着した機体を、1980年代に発見・回収してイギリスで飛行可能な状態に復元した(筆者撮影)
オリジナルのBMW801で飛行可能な世界唯一のフォッケウルフFw190 A-5。旧ソ連レニングラード近郊の湿地帯に不時着した機体を、1980年代に発見・回収してイギリスで飛行可能な状態に復元した(筆者撮影)

実のところ同社は、第一次大戦さなかの1916年に航空エンジンメーカーとして設立され、敗戦によって航空関連の開発・製造が禁止されたため、オートバイ/自動車メーカーに転身した社歴がある。なおBMWの円形エンブレムは、プロペラをモチーフにしたという説があることは、真贋を別にして自動車好きに広く知られるところだ。

二分割構造で大きく開くエンジンカウリングは、極めて整備性に優れるのみならず、そのまま整備兵の踏み台にもなる考え抜かれた構造となっている(筆者撮影)
二分割構造で大きく開くエンジンカウリングは、極めて整備性に優れるのみならず、そのまま整備兵の踏み台にもなる考え抜かれた構造となっている(筆者撮影)

第二次大戦期の航空レシプロエンジンは、速度や高度、状況(離着陸/巡航/戦闘など)に対応した燃料流量、点火時期、過給器切り替え、プロペラピッチの調整が、パイロットの必須操作であった。これらの操作を適切に行わないと、定格出力が得られないばかりかエンジン停止、最悪の場合はエンジン損傷を招くことさえあった。

ちなみに近代のジェットエンジンは、FADEC(全デジタル電子制御)によって、スロットルレバー1本で統合制御を実現している。ところが、まだデジタルコンピュータが出現するはるか以前の約80年も昔に、スロットルレバーだけでそれらの煩雑な操作を可能とした、革新的な航空レシプロエンジンがBMW801である。

先進かつ実戦向きの“コマンドゲレーテ”

左は統合制御機構“コマンドゲレーテ”の外観。右はその構造概念図。基本的にエンジンが作り出す油圧で作動し、アネロイド式圧力計などで補正操作を行う機械式アナログ・コンピュータだ(筆者提供)
左は統合制御機構“コマンドゲレーテ”の外観。右はその構造概念図。基本的にエンジンが作り出す油圧で作動し、アネロイド式圧力計などで補正操作を行う機械式アナログ・コンピュータだ(筆者提供)

ドイツ空軍フォッケウルフFw190は、欧州諸国では珍しい空冷エンジンの単座戦闘機である。搭載するBMW801は、1,700馬力級の空冷星型複列14気筒エンジンだ。その基礎技術はアメリカから学んでいるが、燃料噴射システムや環状油冷機構、強制冷却ファンなど、ドイツ独自の技術をふんだんに盛り込んで開発された。

とりわけ統合制御機構“コマンドゲレーテ”は、先の様々な必須操作を、スロットルレバーだけで可能にした、いわば機械式アナログ・コンピュータであり、当時の列国ではついに実用化できなかった、最先端の技術なのだ。

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