はじめに
一般の企業に勤める労働者は、退職に際し雇用保険から「失業手当」の受給が可能であり、手続きに用いられる「離職票」は退職時に手渡されるのが一般的です。
一方で、「公務員として働いているけれど、公務員も退職したら離職票はもらえるの?」と気になっている公務員の方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、公務員と離職票について、そして公務員が受け取れる手当について解説します。
公務員は退職時に離職票を受け取れる?
実は、公務員は一般の労働者が離職の際に受け取る「離職票」を受け取ることはできません。しかし、公務員には「離職票」に相当する独自の書類が存在するのです。ここでは、公務員が一般の離職票を受け取れない理由や、公務員が受け取れる書類について解説します。
公務員は雇用保険法の適用対象外
離職票を受け取れないのは、公務員が「雇用保険法」の適用対象外のためです。これには、雇用保険が適用される事業所で働く労働者と、公務員の雇用状況の安定度の違いが関係しています。
たとえば、一般の企業などの事業所は、経済の動向によって雇用状況が左右される一方、公務員の雇用状況は経済の影響を受けづらいのが特徴です。また、公務員の場合は、雇用先が倒産し失業となるケースもほぼ無いと言えます。
よって公務員は、「労働者の万が一」に備える側面を持つ雇用保険に加入する必要はないとみなされているため、退職しても雇用保険上の書類である離職票は受け取れないのです。
離職票ではなく「国家公務員退職票」を受け取る
「では、公務員は仕事を辞めた後に受け取れる書類はないの?」と思われるかもしれませんが、公務員は「国家公務員退職票」を受け取れます。国家公務員に限らず、地方公務員の場合も、その自治体の条例に即した「退職票」の交付が可能です。
この退職票は一般労働者の離職票と同じ役割を持っており、条件を満たすことで公務員の失業手当に相当する「失業者の退職手当」を受給できます。そのため、公務員を辞する際には受け取っておくべき重要な書類と言えるでしょう。
公務員は失業手当の代わりに退職手当を受け取れる
さきほども紹介した通り、公務員は退職後、退職手当を受給する権利があります。ここでは、退職手当の受給要件や受け取るための方法について解説します。
退職手当の受給要件
退職手当を受け取るためには、「働いている期間が12カ月以上であること」が条件のひとつです。これは一般職や特別職を問わず常勤の職員に定めていますが、非常勤として勤務していた場合であっても、労働時間など一定の条件を満たしていれば常勤職員と同じく対象となります。
受給できる手当の支給金額は、勤続年数や退職前の給与額、そして自己都合や定年といった退職理由によって決定されます。離職先から支給される退職手当は、一般的な事業所における「退職金」に相当しますが、雇用保険の「失業手当」と同じ働きを持つことから、平均的な一般企業の退職金よりも支給金額が高い傾向にあるのです。
ただし、勤続年数によっては手当の金額が低くなってしまい、雇用保険における「失業手当」としての働きを果たせない額となってしまうケースがあります。その場合は、職場から支給される手当とは別に退職手当を受給できる可能性があるのです。その受給方法については、次項で解説します。
退職手当の受給方法
手当の中には、実は「一般の退職手当」と「失業者の退職手当」の2種類が存在します。一般の退職手当が退職時に所属先などから支給されるのに対し、失業者の退職手当は「一般の退職手当が、雇用保険の失業手当の満額よりも不足していた場合」に差額分が別途支給されるものです。
一般の退職手当の場合は、退職の前後に各自治体や所属先で定めている「退職手当金申請書」などの書類に必要事項を記入、押印の上で申請すると手当を受け取れます。
一方、別途支給となる「失業者の退職手当」の場合は、失業手当と同じく失業の翌日から1年の申請期限内に手続きを行います。申請先は最寄りの公共職業安定所(ハローワーク)となり、求職の申し込み、および失業の認定が必要です。申請の大まかな流れは、以下の通りです。
1.所属先に「失業者の退職手当受給資格証」または「国家公務員退職票」の交付申請を行う
交付申請は、本人が所属先の福利課などに以下の書類を提出します。退職手当受給資格証や退職票は手当を受け取るために不可欠ですので、必ず交付を受けましょう。
・給与額調書(所属先の担当者に作成を依頼)
・退職手当支給通知書のコピー
・交付申請書
・返信用封筒(郵送での手続きの場合)
2.受給資格証を持参しハローワークの窓口へ
退職手当受給資格証や退職票を受け取ったら、ハローワークの窓口で提示し、求職の申し込みと「失業状態である」と認定を受けましょう。失業認定を受けたら、再び所属元の担当部署に「失業者の退職手当給付申請書」などを提出します。以上の手続きにより、一般の手当額を補う形で失業者の手当が支給されるのです。
退職手当の受給期間を延長する場合
一般の退職手当は、ほとんどの所属先において退職後すぐに支払われますが、失業者の退職手当の受給期間は1年と決められており、支給はこの期間内に行われます。
ただし、やむを得ない事情により30日~1年以上求職活動ができない期間が発生した場合は、その期間分だけ本来の受給期間の延長が可能です。申請には、求職活動、および労働できなくなった翌日から1か月以内に「受給期間延長申請書」を離職先の福利課および担当部署に提出する必要があります。
公務員でも失業保険を受け取れる場合がある?
さきほども紹介したとおり、場合によって公務員は「一般の退職手当」とは別に「失業者の退職手当」の受給が可能です。申請にハローワークを通す必要があるため失業保険を受給していると考えられがちですが、正確には雇用保険上の制度である失業保険ではなく、給付金も保険料ではなく国費から支払われています。そのため、あくまで「失業者の退職手当」は別の制度であると留意しておきましょう。
ここでは、公務員が「失業者の退職手当」を受給できる条件と、それとは別に公務員であっても「雇用保険の失業保険を活用できるケース」について詳しく解説します。
退職手当が失業保険相当額より少ない場合
公務員が失業者の退職手当を受け取れるケースで最も多いのは、さきほども解説した「一般の退職手当が、民間の労働者が受け取る失業保険給付額を下回る場合」です。手当の支給において、前提として「失業手当に相当する金額を支給すること」と決められています。そのため、一般の退職手当の金額では不足となる場合、不足した分だけ差額として給付を受け取れるのです。
たとえば、失業手当の金額決定には、勤務年数の長さも関係します。支給要件である「12カ月以上の勤務」を満たしていても、1年程の勤務年数では手当の金額が低くなってしまう傾向があるのです。
その結果、失業保険に相当する金額よりも手当が低くなってしまい、前提である「失業保険の相当額」を満たせません。このような事態に対応するために、この「失業者の退職手当」の受給制度があるのです。
期間雇用の公務員の場合
公務員であっても、その労働期間に期限がある場合は、退職後に「雇用保険の失業給付」を受給できる可能性があります。ここで言う「期間」は半年以内と定められており、期間雇用の場合はたとえ公務員であっても雇用保険に加入すべきとされています。そのため、半年の期間雇用を繰り返す、または前職で雇用保険の被保険者であったなど、保険の加入期間が加算され条件を満たせば、失業保険を受け取れるのです。
たとえば、公務員として半年の期間雇用の契約を都度結び直して働き12カ月を超えた場合や、期間雇用の以前に一般事業所で6カ月以上被保険者として労働していた場合などが該当します。ただ、期間雇用であっても継続して働き、その期間が半年を超えた場合は正規雇用の公務員と同じ取り扱いになるため、失業保険は受けられませんので注意すべきです。
まとめ
公務員は、雇用保険の加入や失業保険の受給は原則認められていませんが、失業手当に相当する「退職手当制度」が存在します。一般の退職手当にくわえ、理由によってはハローワークを介して「失業者の退職手当」の受給も可能です。
失業保険と公務員の退職手当制度は共通する部分も多いために混同してしまいがちですが、自身の勤務状況や支給額を確認の上、適切な申請を行うようにしましょう。