富裕層向けにしたくない 「介護保険適用外」サービスが人気を集める理由

    公的介護保険制度では利用できないサービスを提供している「イチロウ」。24時間いつでも利用が可能だ
    公的介護保険制度では利用できないサービスを提供している「イチロウ」。24時間いつでも利用が可能だ

    食事の宅配サービス、訪問理容や美容、長時間の見守り、買い物の付き添い、ペットの散歩、電球の交換や庭の掃除、急な利用――。ご存知だろうか? これらはすべて介護保険では利用できない事柄だ。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))

    公的介護保険制度には細かな規定があるため、利用者の現状に即してないという声が多い。希望するサービスを受けられないため、行きたくないデイサービスに通い、入りたくない老人ホームへ入居を余儀なくされる。そんなケースがいま増えている。

    人生の晩年は住み慣れた我が家で過ごしたい。そう願う高齢者は70%を占めているが、願いを叶えるのは難しいのが現状である。(数字は厚生労働省の調査より)

    この問題に挑んだ若き起業家がいる。水野友喜さん(34)だ。彼が立ち上げた介護サービス事業「イチロウ」は、あえて「介護保険適用外」のサービスに特化している。その理由はいったい何なのか。

    「介護保険制度は国民全員が利用できる良い制度ですが、残念ながら現状に即していません。私は特別養護老人ホームやデイサービスなどで10年以上介護の仕事に従事してきました。そこで感じたのが介護保険制度への危機感だったのです。介護保険制度が利用者さんのニーズに合わせているのではなく、利用者さんが介護保険制度に合わせているのが現状であり、満足には程遠い状態です。介護保険法は3年ごとに改定されますが、改訂を重ねるごとにルールは厳格化され、現在の訪問介護は実質1時間〜1時間30分程度しか利用することができません。以前は3、4時間利用できていたのに、改悪と言わざるを得ません。1時間では利用者さんの希望を十分に叶えるのは難しいと懸念しています」(イチロウを運営する株式会社LINK代表取締役・水野友喜さん、以下同)

    日本の介護は介護保険上で運営される介護事業所が担っている。そのため報酬は法律で定められており、1事業所あたりの売上には上限があり、介護士を昇給させ賃金を上げていくのが難しい状態となっている。そのため介護士は、何年働いても昇給しないのだ。

    「いつまでたっても給料が変わらないので、介護士の意欲は一向に上がりません。モチベーションの低下に伴いサービスの品質も低くなっていきます。その被害者は利用者です。この「昇給しにくい」という現実も介護業界の大きな問題です」

    富裕層向けのサービスにしたくない

    こういった問題を克服するために始まったイチロウのサービス。どういったものだろうか。

    「イチロウでは、利用者さんのあらゆる希望に応じています。例えば、外出や散歩、買い物、墓参りの代行、ペットの世話、庭の手入れ、見守り、話し相手、病院内の介助、診察の立ち合いや料金の支払い、薬の受け取り、病院との連携など、介護保険ではまかなえない、あらゆることに対応しています」

    公的介護保険制度では利用できないサービスを提供している「イチロウ」。24時間いつでも利用が可能だ
    公的介護保険制度では利用できないサービスを提供している「イチロウ」。24時間いつでも利用が可能だ

    サービスは、メールアドレスなどを登録するだけで簡単に利用できる。料金は地域によって多少の差があるが、東京都の場合1時間2900円(9時から18時利用の場合)。それに交通費600円がプラスされる。例えば1日2時間、月2回利用した場合、月額は1万1800円(交通費除く)。保険適用外サービスなので自費利用になるが、それほど高額ではない。

    「サービス開始当初は、利用者の1ヶ月の平均利用額は30万円ほどでした。現在は平均4万円まで下がっています。自費とはいえ富裕層向けのサービスにしたくありませんでしたので、誰でも利用してもらえるように工夫を重ねていきました。マッチング・マネジメント業務をITで効率化したおかげで、料金を下げることができたのです。保険外サービスは高い、というイメージをお持ちの方もいると思いますが、介護保険と併用してバランスよく利用することで、より満足いただけると考えています」

    イチロウの大きな特徴は、「介護のDX化」

    イチロウの大きな特徴は、「介護のDX化」にある。ITを駆使して利用者と介護士のマッチングを行うことで、他社との差別化を図っている。


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