インターネットに無断で漫画を掲載する海賊版サイトへの対策が年々強化されている。2021年には法の網の目をくぐるように行われていた不正行為に法の網をかぶせ、さまざまな角度から追い詰める動きが進んだ。文化庁は今年、無料で相談できる窓口を設置するなどして、海外に拠点を置く海賊版サイト運営者に法的措置をとりたい個人クリエーターなどを支援する方針だ。“タダ読み”の被害額は最悪レベルに達しているが「包囲網」を狭める準備は着実に進んでいる。
対策の予算1.2億円
海賊版サイト「漫画村」に広告を出稿した代理店に対して漫画家の赤松健さんが損害賠償を求めた裁判で東京地裁は2021年12月、赤松さんの主張を認めて2社に請求全額の1100万円を支払うよう命じた。漫画村は18年に閉鎖したが、この判決は今年以降の海賊版対策に影響を残すとみられる。
漫画の海賊版サイトには、画像データを1冊、1話といった単位で丸ごとダウンロードしてオフラインで読めるようにする「ダウンロード型」と、ウェブブラウザーなどを使って漫画を1ページずつ順次表示させるオンラインの「ストリーミング型」などがある。21年1月施行の改正著作権でダウンロード型の利用を違法だと明確に位置づけられるようになったが、同法でストリーミング型を取り締まるのは難しいとされている。
だが今回、広告を出稿していた会社が著作権侵害を「幇助」(ほうじょ)したと認定されたことで、海賊版サイトに掲載される広告が減り、サイト運営者の収入源を断てるようになると期待されている。漫画を掲載する形式が違法どうかにかかわらず、お金の流れをせき止めれば海賊版サイトは存続する動機を失い、次第に“干上がる”というわけだ。
海賊版そのものは掲載していないが著作権を侵害するコンテンツへ誘導するリンク(URL)を載せた「リーチサイト」「リーチアプリ」も20年10月から違法とされており、包囲網は着実に狭まっている。だが、日本の法律では対応しきれない海外での被害は依然として深刻だ。出版社や通信事業者などで構成される海賊版対策団体「ABJ」は21年11月、ベトナムに拠点を置くと推測される海賊版サイトの被害が著しく増加したと報告している。
海外で訴訟を起こすとなれば費用と労力がかかる。それ以前に、規模が大きくない出版社や個人クリエーターの場合は掲載をやめさせる手続きが分からないことが少なくない。
こうした問題を受けて文化庁は、22年度の予算案に海賊版対策事業として1億2300万円を計上。21年12月24日に閣議決定された。年内にはインターネットの著作権侵害被害を受け付ける窓口を開設する方針だ。
文化庁は「TwitterなどのSNSにアップロードされた個人クリエーターの作品が(作者やプラットホームの意図に沿わない形で)無断転載されるケースも増えている。無料で相談できる弁護士を紹介するなどして、どのように権利を行使していいか分からない人たちが一歩踏み出せるようにしたい」(著作権課国際著作権室)としており、著作権侵害対策をまとめたハンドブックを作成して配布するという。