「先端技術は中国に筒抜け」日本の軍事技術が周回遅れになってしまった根本原因

    安全保障に転用できる技術を監視する発想も仕組みもなかった

    この頃、自民党の甘利明議員や、安全保障貿易管理を担当する経産省から、危機意識が発信されるようになった。最初に動いたのは経産省だった。

    機微技術移転は、産業スパイやサイバー攻撃のような裏口を使った不法なものだけではない。表玄関から堂々と機微技術を中国に移転することもできる。留学生を通じるものもあるが、より大規模なものとして、経営参入や合弁事業の設立、買収合併がある。

    経済産業省は、2019年に外為法を改正した。それまでは外資による日本企業の株式取得の場合、取得株が全体の10パーセントを超えれば自動的に政府に通報が来る仕組みであったが、その上限を1パーセントに下げて、より厳しい監視の目を光らせることにした。

    そこで問題となったのは、誰が機微技術の目利きをするかという問題である。

    実は、それまで安全保障の観点から対内投資を監視するという発想は政府の中になかったのである。対内投資問題なので外為法上は財務省の所管となる。財務省に軍事技術の専門家はいない。そこで、総理官邸で全省庁が集まってきちんと協議することにした。

    杉田内閣官房副長官をヘッドとするプチCIFIUS(米国対内外国投資委員会)のようなものができた。まだ国家安全保障局に経済班はなかったが、安全保障の専門家が揃っている国家安全保障局の協力も依頼した。国家安全保障局を通じてインテリジェンス・コミュニティの協力も得ることができた。こうして、ようやく経済安全保障に取り組む体制が立ち上がることになった。

    民間の技術を、国家安全保障に活用する仕組みも予算もない

    もう一つ問題があった。それは科学技術政策及び産業政策が、安全保障政策と完全に遮断されており、世界最高水準の日本の民生技術、それを支える技術者や研究者を、国家安全保障のために活用する仕組みも予算も日本政府の中にないことである。

    戦後、日本の中には、そのような考え方自体がなかった。上記の対中機微技術流出問題が「知り、守る」政策だとすれば、この問題は安全保障関連技術を「育て、活かす」政策である。

    2021年9月に立ち上がったAUKUSの三国同盟の枠組みは、2021年9月の三国首脳共同声明で、安全保障、産業、科学技術を一体化させるべく協力すると謳っている。まさに民生技術を含めて、安全保障に関する最先端技術協力を謳っているのである。

    常に科学技術で世界の最先端を走り続け、軍事的優位を誰にも渡さないというアングロサクソン一族の強い決意が伝わってくる。

    日本にはこの仕組みがない。予算もない。科学技術と安全保障を結び付ける仕組みが日本政府の組織や政策から完全に欠落している。とてもAUKUSからお呼びのかかる状況ではない。


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