来年1月末にも再開が見込まれる政府の観光支援策「Go To トラベル」は、昨年7~12月に行われた第1弾のトラベル事業に見直しを加えた上で行われる。一時的にでも宿泊需要が押し上げられ、「危機」を和らげるとのホテルの期待は大きい。だが人手不足の現場で混乱が再燃し、トラベル事業の効果が減殺されるのではないかとの懸念もある。
平日手厚く
「利用が平日と休日に分散されるのはありがたい。旅行代金の15%としていた前回のように電卓をたたいて計算する手間も省ける」
リーガロイヤルホテル(大阪市)の荻田勝紀総支配人は、観光庁が11月に発表した来年のトラベル事業の内容をこう評価する。
来年のトラベル事業では、旅先の飲食店や土産物店で使える地域共通クーポンを、昨年のトラベル事業の「旅行代金の15%相当額」から、「平日3千円、休日千円の支給」の定額に変える。平日を手厚くし、旅行の集中を休日から分散させるのが狙い。荻田氏が評価するのはこの部分だ。
1人1泊当たりの旅行代金の割引率は35%(上限1万4千円)から30%(同1万円)に下げる。宿泊だけの場合は上限7千円。上限額を下げたのは、中小の宿泊業者にもメリットを及ぼすことが狙いだ。
まずは国の事業として行い、旅行需要が高まるゴールデンウイーク(GW)は停止。その後、都道府県の事業として、旅行代金の割引上限を8千円へ下げるなどして続け、繁忙期の夏前に終了する。
需要刺激への期待は高い。観光庁によると、昨年のトラベル事業も、7~12月に少なくとも延べ8781万人が利用した。
また、ワクチン接種証明や検査の陰性証明の提示を条件とするなど、感染防止に気を配ることも「客の安心につながる」(ホテル関係者)。関西のあるホテルは、ワクチン非接種の従業員に「週に1度」といった定期的な抗原検査を始めるなど、より安全対策を徹底する。
人件費削減
もっとも、ホテルはコロナ禍で客室稼働率が大きく落ち込んだ。コロナ拡大前の令和元年と拡大した2年の宿泊施設を比べると、大阪府は79%から27・8%へ、東京都は79・5%から33・6%へ急落した。売り上げが激減する中、運営コストを下げるため、ホテルは非正規職員を解雇して人件費を削るなどしてきた。
人手不足のホテルにとり、懸念はトラベル事業の事務作業が増え、現場が疲弊することだ。疲弊すればサービス提供などの仕事の能率や生産性が落ち、稼ぐ力の低下につながる。星野リゾートの星野佳路(よしはる)代表は「制度設計をよりシンプルにすべきだ」とし、地域共通クーポンの額を曜日などで変えず、一律にすることなどを提案する。
昨年浮上した、旅行大手などで作る事務局(東京)の準備不足の問題が再燃しないかも不安材料だ。
昨年は地域共通クーポンの使用は10月1日にスタート。しかし、「クーポン券」「ホテルが対象施設であることを示すポスター」「日付などを押印するハンコ」の「3点キット」のホテルへの配布が間に合わず、予定通りサービスを始められず現場は混乱した。ホテル関係者は「近隣のホテル同士でハンコを貸し借りした」と振り返る。
また、昨年12月には、コロナ感染が再拡大し突如、トラベル事業が中止され、現場が混乱した。大阪市内のホテル関係者は「中止を知らず現れた客もおり、予約客に1人ずつ電話して意向を確認しなければならなかった」と話す。
「利用者は再停止もあり得ると理解したうえで利用すべきだ。(いつ再停止するか予測しやすいよう)再停止の判断基準を都道府県などであらかじめ決めておく必要がある」
経済同友会観光再生戦略委員会の委員長を務める森トラストの伊達美和子社長はこう指摘する。トラベル事業を滞りなく進めるには、幅広い協力が欠かせない。=この連載は田村慶子が担当しました。