住宅ローン控除に適用される控除率と上限額が引き下げられると話題になっています。昭和47年の住宅取得控除制度から連綿と続く住宅取得支援税制に改悪と評される内容の変更が迫っています。なぜ控除率と控除額が下がるのか、これから家を買おうと考えている人にはどの程度の影響があるのでしょうか。
生活支援のための住宅ローン控除
かつては、土地の価格が右肩上がりでした。そのため、早めに家を買えば住宅の経年劣化よりも、土地の価格は大きく上昇し、若いうちに家を買うことにメリットがありました。加えて、長期的な所得向上が見込まれていたため、歳を重ねるごとに住宅ローン返済が楽になるという時代背景がありました。
当時の課題は、頭金を準備するための「期間」と貯蓄期間中に土地価格が上昇すること、貯蓄期間に消費を減らすこと等でした。住宅購入後は住宅ローンを返済すると生活に回す資金が少なくなるため、消費を抑制する原因となっていました。そのため、可処分所得を回復するために、住宅ローン控除などの住宅取得に関する制度が設けられ、維持されていました。
令和の今はどうでしょう。一部の都市部では地価と全国的な建築コストの上昇で、高度経済成長とまではいかないまでも、マイホーム価格も値上がりしていると言われます。一方で、所得は右肩下がりを続けていますから、無理して住宅ローンを借りて家を買っても、歳を重ねても生活は豊かになりません。それどころか、社会保険料率の上昇、所得税の所得控除の減少により手取りが減少。消費税増税やステルス値上げにより、生活コストが上昇し、気づかぬうちに生活が苦しくなっていきます。ゆでガエル状態と言ってもいいでしょう。
生活支援から分配財源としての住宅ローン控除改悪へ
2022年の税制改正案による変更点は3つあります。
- (1)借り入れ上限の引き下げ
- (2)控除率の引き下げ
- (3)控除期間の延長
です。
(1)借り入れ上限の引き下げ
住宅ローン控除は借り入れ上限が定められています。上限は時期によって異なりますが、最近は一般的な住宅は4000万円まで、環境性能などの条件を満たすと5000万円までとなっていました。
今回の税制改正では、4000万円の控除上限が3000万円に下がる見込みです。国土交通省の「令和2年度 住宅市場動向調査」によると、三大都市圏の令和元年度中の住宅購入価格は、中古戸建住宅2,894万円、新築戸建て住宅3,826万円、新築注文住宅5,359万円、中古マンション2,263万円、新築マンション4,639万円となっています。
地価の高い地域では、住宅ローン控除の上限が引き下がることにより、新築住宅を買いづらい状況に陥る可能性があります。
(2)控除率の引き下げ
控除率は現行の1.0%から0.7%に引き下げられる見通しです。住宅ローン控除の税制改正は、控除率より低い金利で住宅ローンを借りることによる逆ザヤが以前から指摘されていました。
逆ザヤが続くと、一部の住宅購入者に過剰な所得税還付が発生するため、何らかの手段で所得税の過剰還付を抑制したいと考えたのでしょう。
現状の住宅ローン控除は上限4000万円に対して控除率1.0%を10年継続します。すると年間40万円の所得税還付を最長10年享受し、合計400万円の所得税を手元に残すことができます。
上限額を3000万円、控除率を0.7%とした場合には、年間21万円の所得控除となり、現行制度の約50%税額控除が減少します。半分になってしまうのです。なかなか影響の大きな数値ではないでしょうか。
控除率の引き下げで、今まで全期間固定金利や10年固定金利など固定金利を選択していた人たちは、より金利の低い変動金利を選択せざるを得なくなるかもしれません。