南アフリカで新型コロナウイルスの変異株が拡大して、その感染力の強さが世界中に衝撃を与えた。世界各地の株式市場は大きく動揺し、また為替レートはリスク回避のために円資産に向かい、円高ドル安に振れた。
実態の調査に乗り出した世界保健機関(WHO)はオミクロン株と命名し「懸念される変異株(VOC)」であると警鐘を鳴らした。一週間もたたないうちに、各国政府は水際対策の厳格化など政策の大胆な変更に舵を切り始めた。
国民感情を「聞く力」
特に動きの速かったのは、なんと日本であった。ロイターなど国際メディアは、日本の水際対策の厳格化を相次いで報じた。岸田首相は、外国人の新規入国を原則的に禁止した。原則を外れる「特段の事情」で入国する外国人は、船舶や航空機などで物流に関わる人たちで、日本の生命線を担う人たちである。
また一日当たりの入国者総数を5000人から3500人に引き下げた。この3500人には外国人と日本人が含まれる。ただ10月の一日当たりの平均は2400人ほどである。特定の国や地域に滞在した日本人と在留資格を持つ外国人については3~10日間、指定施設での隔離を行う事で制限を強めている。
この措置は当面1カ月の臨時的なものである。オミクロン株の特性や感染状況から水際対策の見直しが行われる方針だ。すでにナミビアからの入国者がオミクロン株に感染していることが判明した。アフリカ諸国や欧州を中心にして、オミクロン株の感染者の報告が相次ぎ、相当のレベルで各国に感染が拡大している可能性が指摘されている。
もちろんオミクロン株の毒性や感染力、ワクチンの効果などは関係機関が調査中である。正体が判明する前に岸田政権が水際対策強化の方針を打ち出したことについては高く評価したい。日本の新型コロナの感染状況は、経済を無理なく機動できるレベルまでにリスクが低下している。国民の努力の結晶だろう。多くの国民は正直、ほっとしている段階だった。
この「成果」を水際対策の不十分さで打ち壊すことは、政権に痛撃を与えるだけでなく、日本社会にも大きな精神的・経済的ダメージを与えるだろう。国民感情を「聞く力」を岸田首相が持っていたことは評価すべきだ。