「遺影を撮る写真家になりたいと決意したのです。それで、知人や友人に遺影を撮らせてほしいと頼み込みました。遺影なんて必要ない、縁起が悪いと断られることが多かったのですが、それでも撮り続けていきました。遺影は、残されたご家族が、その後の人生で何度も振り返り、心の拠り所になるものだと思います。亡くなった方がいちばん良い表情で、自然な感じで写っている写真を残してほしいと考え、撮り続けていきました」
自分のために撮ってほしい
準備を始めて1時間半後、ヘアメイクが完成し、撮影が始まる。まずはオフィスでのショット。愛着のある着ぐるみに囲まれた写真を撮っていく。その後、大辻さんの希望もあって、近所の神社でも撮影が行われた。自然が好きということで野外写真も残したいと希望したのである。
すべての撮影に要した時間は、4時間余り。対象者の希望に寄り添って、ていねいに撮影していく、うえはたさんの姿が印象的だった。
「遺影は死ぬことを前提としているので、どうしても暗いイメージがあります。そのため、写真の世界でもあまり重要視されていないのが実情です。でも、死はいつ訪れるか分かりません。いざという時に適当な写真でいいのか、と疑問を感じています。そして私は、ご自分のために撮ってほしいと思います。人生を振り返るきっかけになりますし、思わぬ発見があって、自分を知る良い機会にもなると思います」
過去を見つめることで、誰もが次のステップへ向かって前向きになれる、とうえはたさんは話す。実際に今回撮影をされた大辻さんは、今年、仕事を引退して会社を後継者に引き継ぐ予定だ。代わりに、ご自身が長年やりたかった地域の交流事業を始める決意をしている。
自分を見つめ直すことができるという遺影。人生の節目で過去を振り返り、未来を考えるきっかけになるかもしれない。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))