宇都宮駅から車で約20分。市街地を抜けると、川沿いに広がる広大な果樹園に目を奪われる。栃木県というと「とちおとめ」を始めとした、いちごのイメージが強いかもしれないが、実は宇都宮市内には約100もの梨農園がある。
そんな梨農家の一つ「阿部梨園」が今、大きな話題になっているのをご存じだろうか。ソフトボールよりも大きく、甘くてジューシーな梨の品質もさることながら、畑に入らずに業務改善を続ける“マネージャー”、佐川友彦さんの活動に注目が集まっているのだ。業務改善を進めるだけではなく、クラウドファンディングで資金を募り、そのノウハウをWeb上で無償公開しているという。
佐川さんは、東京大学農学部の大学院を卒業し、化学メーカーに勤めるなど“農家”としては異色の経歴を持つ。そんな彼は、どうして梨農家の世界に飛び込んだのだろうか。
環境問題に強い関心、農学部から太陽光ビジネスへ
幼い頃に読んだ絵本がきっかけで、小学生の頃から将来の夢が「環境大臣」だったというほど、環境問題に強い関心があった佐川さん。その思いは、大学生になっても衰えず、サステナビリティを学ぶために東京大学の農学部に進学した。
「僕が子どもだった1990年代は、環境問題に注目が集まっていた時期でした。サステナビリティなどを勉強して、何か役に立ちたいという思いがあったんです。それを勉強するに当たって、自然や環境を学べる農学部を選びました。もともと工学系から移ってきたこともあり、農業工学を専攻し、バイオマスエネルギーなどを研究していました」(佐川さん)
エネルギーやサステナビリティをテーマに就職活動を行い、大学院を卒業した佐川さんは、米国の化学メーカー「デュポン」に就職。当時、日本でも盛り上がりつつあった、太陽光ビジネスに関するプロジェクトにアサインされ、1年目からプロジェクトリーダーを任されるなどハードな日々を送った。
「あの頃は、国内の太陽電池産業の企業100社くらいが一堂に会してコンソーシアムを作り、寿命を延ばすべく共同研究を進めていました。使命感や責任感もあり、いろいろとリーダーなどもやらせてもらっていましたが、サイエンスとビジネスの折り合いをつけるのが非常に難しく、あるときに心が折れてしまったんです」(佐川さん)