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過去最大の社会保障費、充実策を“先食い” 歳出改革は正念場

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過去最大の社会保障費、充実策を“先食い” 歳出改革は正念場

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東京都内の介護付き有料老人ホーム。介護職員の処遇は改善されるが、人材不足解決につながるかは未知数だ  2015年度予算案の最大の焦点だった社会保障費は、過去最大の総額31兆5000億円に膨らんだ。社会保障制度の維持は消費税増税が前提だが、再増税を延期したのにもかかわらず、子育て支援などがほぼ“満額回答”となるなど充実策を先食いした形だ。

 社会保障費が1兆円増えた最大の要因は、消費税再増税を延期したにもかかわらず、充実策(計1兆3600億円)をほぼ全て予定通り実施するためだ。低年金者へ年6万円を支給する措置や、年金受給資格を25年から10年への短縮は見送ったものの、子育て支援策には14年度の3000億円から2100億円増の5100億円を投入。再増税延期で中止する方針だった子育て世帯向け給付金も、与党の反発を受けて一転、継続を決めた。

 一方、高齢化による医療や介護の給付金などの「自然増」(8300億円)を抑える歳出改革は介護報酬改定で介護施設に対する4.48%の報酬減(1100億円減)や、全国健康保険協会(協会けんぽ)への補助金減額(460億円)など、削減努力は計1700億円にとどまった。

 自然増の抑制に最も貢献したのは景気回復による就業率の上昇だ。生活保護受給者の減少や、国の財政負担が多い国民健康保険から、協会けんぽや組合健保へ移行する人が増えた効果で、自然増は2500億円目減りしたという。

 限られた財源から捻出した事業も効果を発揮するかは未知数だ。介護報酬改定では介護職員の処遇改善に加算し、1人当たりの賃金を月額平均1万2000円程度引き上げる。当初は1万円増の予定だったが、人材確保のため2000円増額した。

 ただ、加算対象はホームヘルパーなど患者の世話をじかに行う介護従事者に限り、ケアマネージャーや社会福祉士、施設の事務や経理担当者は対象外だ。介護現場では患者1人につき、多様な職種や資格を持つ人が関わっているのにもかかわらず、処遇改善の恩恵を受けられない人が出るため「職員間で公平性が保てず、使い勝手が悪い」(首都圏の介護事業者)という声もある。

 女性が大多数を占める介護の現場では、配偶者控除や社会保険を考慮して年収130万円の範囲で勤務する人も多く、そうした人が賃上げで勤務時間を減らせば政府の思惑とは逆に人材不足を招く懸念も指摘されている。

 社会保障費の歳出改革は今後、正念場を迎える。16年度は消費税再増税の延期の影響で1兆3500億円の財源不足が生じる。一方、16年度は診療報酬改定と薬価改定の年にあたり、日本医師会など業界団体が報酬の引き下げに反発するのは必至だ。歳出の抜本削減は15年度以上に困難を極めそうだ。(小川真由美)

 ■2015年度の社会保障の充実策の主な内容

 ≪子育て≫

 待機児童解消に向けた8万人分の保育施設の定員増など/5127億円

 育児休業給付金の支給率引き上げ/62億円

 ≪医療介護≫

 在宅医療の推進や小規模な介護施設の整備など/1628億円

 介護報酬における介護職員の処遇改善など/1051億円

 認知症施策の推進/236億円

 国民健康保険などの低所得者保険料軽減措置の拡充/612億円

 国民健康保険への財政支援の拡充/1864億円

 高額療養費制度の見直し/248億円

 65歳以上の介護保険料の低所得者軽減強化/221億円

 難病・小児慢性特定疾病への対応/2048億円

 ≪年金≫

 遺族基礎年金の父子家庭への対象拡大/20億円

(注)金額は国と地方の合計額

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