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並ばず遊ぶ米ディズニー“極悪ツアー” 障害者制度を逆手に…悪びれぬ富裕層も

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

並ばず遊ぶ米ディズニー“極悪ツアー” 障害者制度を逆手に…悪びれぬ富裕層も

更新

昨年12月、新ファンタジーランドの開業を盛大な花火で祝った米フロリダ州のディズニーワールド。しかしここで、車いすの障害者を雇った列飛ばしのための“極悪ツアー”が横行していたことが発覚、空港でもセキュリティ・チェックの列を飛ばす“偽車いす”利用者の激増が問題化している(ロイター)  少し前の話ですが、ベストセラー「五体不満足」で知られる作家、乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さん(37)が、車いすを理由にレストラン入店を拒否されたことを簡易ブログ、ツイッターで明かし、論争が起きました。

 乙武氏と店主はネット上で和解しましたが、ちょうどその頃、米国でも世界を代表する巨大エンターテインメント施設でのとんでもない出来事が明るみに出て、それをきっかけに車いすをめぐる大論争が巻き起こっています。

 事の発端は、世界的人気のテーマパーク「ディズニーワールド」(米フロリダ州)で明らかになった信じがたい事実でした。

 VIPツアーズ 「待たずに1分で入れた。富裕層やってる行為」

 米タブロイド紙ニューヨーク・ポストが5月14日にスクープし、翌日に米CNN、16日には米紙タイム電子版など、全米メディアが一斉に報じたので、既にご存じの方もいらっしゃると思いますが、この「ディズニーワールド」で、一部の富裕層の母親たちが、アトラクション(遊戯施設)待ちの長い行列を飛ばすため、障害者を雇って家族の一員のように見せかけるという“極悪ツアー”に大金を支払って参加していたというのです。

 「ディズニーワールド」では、車椅子や電動スクーターが必要な障害者がいる団体だと、障害者1人につき6人までなら行列に並ばなくてよい優先ルートでパークを回れるという制度があるのです。この制度を悪用したのがこの“極悪ツアー”なのですが、あまりにも極悪過ぎて言葉もありませんね。

 報道によると、この“極悪ツアー”を扱っていたのは地元、フロリダ州にある旅行会社「ドリームツアーズフロリダ」です。“極悪ツアー”の正式名称は「VIPツアーズ」(当然ながら現在は募集中止)。

 参加費は1時間130ドル(約13000円)、1日8時間で1040ドル(約10万4000円)。

 けっこう高額ですが、ディズニーの正規のVIPツアーに入り、待ち時間短縮のための「ファストパス」を使うなどすれば、1時間当たり310ドル(3万1000円)~380ドル(3万8000円)かかるといい、それよりは安いようです。

 この“極悪ツアー”を利用した女性はニューヨーク・ポスト紙に悪びれもせず、こう話しました。

 「他の子供たちは人気アトラクション『イッツ・ア・スモール・ワールド』に入るのに2時間半並んだけど、うちの娘は1分で入れたわよ」

 彼女は夫と1歳の息子、5歳の娘の家族4人と、旅行会社が手配した電動スクーターに乗った障害者の計5人で優先的に各アトラクションを堪能したと認めています。そして堂々とこう言ってのけたそうです。

 「これが1%(の富裕層)がディズニーでやっていることよ」

 一連の報道で“極悪ツアー”の存在を知ったディズニーの広報は「障害者のための計らいの悪用は容認できない。徹底調査で阻止するための対策を取る」と怒り心頭。

 “極悪ツアー”の存在がばれた旅行会社は自社サイトで「不正確な報道と中傷により、現在このツアーは中止している」と掲示し、ツアーを中止しましたが、ニューヨーク・ポスト紙の取材によると、ツアーガイドを務めていたのは、自己免疫疾患により、仕事では電動スクーターを使っているこの旅行会社の関係者の女性だったそうです。

 ちなみにこの“極悪ツアー”の存在は、自著執筆のためニューヨークの富裕層の日常行動などを調べていた女性社会人類学者のウェンズデイ・マーティンさんがたまたま発見したそうです。

 マーティンさんは米名門イェール大学で比較文学などの博士号を取得、イェール大学などで文化学について教鞭(きょうべん)を取る傍(かたわ)ら、ニューヨーク・ポスト紙に子育て問題に関し定期寄稿していますが、今回の“極悪ツアー”に関し「ごく少数が(外部に知られぬよう)非常に注意深く利用していた」と指摘しています。

 そしてこの“極悪ツアー”の報道と前後して、偶然にも米国では車いすに関する報道が米の3大ネットワークを中心に過熱していました。5月13日付米CBSテレビや5月16日付米ABCテレビ(いずれも電子版)などは、全米の主要空港で多発する車いすを不正利用したセコ過ぎるズル行為の実態をリポートしていたのです。

 米の空港では、車いすの利用者はセキュリティー・チェックの長い行列に並ばなくても優先的にチェックを受けられるのです。

 そして米国空港アクセス法(ACAA)では、航空会社は「車いすを利用したい」という顧客の申し出に対し、無料で車いすを提供せねばならないうえ、顧客はなぜ車いすが必要かといった説明や、証明書の提出といったことを航空会社に行う必要は一切ないと定めています。

 この法律を悪用し、セキュリティー・チェックの列を飛ばしたり、空港内を楽して移動するため、元気なくせに空港で車いすを借りる世の中をナメた輩が激増しているというのです。

 障害者団体「1日に数百件…少なくとも15%は偽装」

 各報道によると、ニューヨーク州郊外のウェストチェスター郡の空港では「これまで、車いすの貸し出しは年間100件程度だったのに、今では1日約100件になっている」(空港マネジャーのピーター・シェラーさん)との怒りの声を紹介。

 また、全米では、中規模のダラス・フォートワース国際空港(テキサス州)で常時300件、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で1日600件、ロサンゼルス国際空港では1日2000件(ゼロがひとつ多いのでは?)もの申し出があるといった驚きの状況を紹介。

 米国脊髄協会のクレオ・キング会長はCBSニュースなど主要メディアに「全体の15%は、本来車いすが必要ない人々だと思うが、(ACAAのせいで)虚偽申告のケースが何件あるかは分かりようもない」と困惑気味に説明しています。

 こうした報道を受け、全米では、日本の障害者手帳のような諸外国で一般化している制度を作り、空港でそうした証明書の掲示を(法律で)義務づけろとの声が上がっていますが、いまのところそんな話はありません。空港の職員たちは顧客の申し出を信用するしかないといいます。

 ディズニーワールドの一件も、全米での空港の一件も、結局、個人のモラルに頼るしかなさそうです…。(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。

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