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悔しいサムスン、賠償より痛い「模倣品」の汚名 対アップル敗訴の衝撃

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

悔しいサムスン、賠償より痛い「模倣品」の汚名 対アップル敗訴の衝撃

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 米アップルと韓国サムスン電子の特許をめぐる法廷対決で、米カリフォルニア州北部連邦地裁の陪審がサムスン側のアップルに対する特許侵害を認定した。

 「ナショナルブランド」の全面敗北に韓国メディアは一斉に評決を非難する記事で反発しているが、アップル側は米国内でのサムスンの旧モデル製品の販売差し止めも申請、追撃態勢を取る。

 評決では製品を「模倣品」と断じられた。これはサムスンが最も重点を置くデザイン開発を否定されたことを意味し、今後の世界戦略に大きな影響が及ぶことは不可避だ。

 現地メディアは援護

 「アップルの4年間の投資と独創的な開発能力をサムスンは3カ月でコピー(模倣)し、取り入れた」。8月21日に開かれた最終弁論で、アップル側弁護人はサムスンの製品開発体質を厳しく指弾した。

 評決対象の争点は合計約500項目を数えるが、ポイントはデザインと位置づけられていた。「四隅を丸めた四角い形状」と「格子型のアイコン配列」がアップル独自の意匠か否か-にかかっていた。

 陪審指針では、ロゴマークを隠して製品を示された消費者が、アップルの「iPhone(アイフォーン)」と混同してサムスンの「ギャラクシー」を購入するようなら「模倣」となる。結果的に、評議員は「サムスン製品はアップルのモノマネ」と断じたのだった。

 全面敗訴でサムスン自身はもとより、国富を優先注入して世界的企業に育て上げた韓国政府、そしてそれをナショナルブランドとして誇りにしてきた韓国社会そのものをゆさぶった。韓国人の“産業ナショナリズム”を刺激。韓国メディアは援護射撃に出た。

 評決を受け、韓国の電子新聞(8月29日付)は、評決が「専門的な特許訴訟であるにもかかわらず、技術の門外漢の一般人に左右された」と陪審制度を批判。争点のうち通信技術に関する部分よりも、素人にも理解しやすいデザイン権の侵害が認定されやすい構造だったと指摘している。

 「数十年間も苦労して技術と特許資産を積み重ねてきたのにいきなりデザインの特許で1兆ウォン以上を賠償しろとは…」

 28日の中央日報は、心境をこう吐露するサムスンのエンジニアの声を掲載。「サムスンの悔しさは十分に分かる」と肩を持つ。そして評決を「米国式正義」「愛国的評決」と批判。企業間における製品のコピーを正当だとするハーバード大経営大学院教授の見解を援用した。

 独自性追求の矢先

 だが、サムスンの受けた衝撃は韓国メディアの“愛国的報道”では語り尽くせないほど大きいと専門家は指摘する。

 評決では、サムスンに特許侵害の賠償として約10億5000万ドル(約823億円)の支払いを命じている。だが、この高額賠償以上に痛いのは「模倣品」の汚名だった。

 世界で売れている先行商品の優位点を徹底的に分析し、短期間に取り入れ、先行商品よりも安価に提供する-。これが、サムスンに限らず韓国の世界的企業が得意とする商品開発とマーケティングのモデルだ。

 だが近年、サムスンは製品開発において「早く、安く」という基本線を維持しつつも“独自性”を追求し始めていた。

 サムスン電子の技術部門OBによると、サムスンは2000年代初めに最高経営責任者(CEO)直属の「デザイン経営センター」を開設。デザイン戦略会議を運営し、常時1000人以上のデザイナーが「デザイン特許開発力の強化」を最大目標として製品開発に当たっている。

 直近では従来の製品外装にとどまらず、使用者の立場に立ったデザイン「ユーザーインターフェース(UI)」などのソフトウエア関連のデザイン開発に力点をシフトさせていた矢先の全面敗訴だった。

 OBは「先駆的製品に刺激を受け、それを乗り越えることがイノベーションの過程には必須だが、サムスンは独自性の高い製品開発力を持つ企業に向かっており、それが誇りだった」と指摘。「依然としてサムスンが模倣段階にある企業だとされたことで、誇りを大きく傷つけられたのが今回の評決だ」と打ち明けた。(ソウル 加藤達也)

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