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玉三郎演出 DAZZLE「バラーレ」 ジャンル超え新たなダンス
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まるで地の底から静かにはい上がってくるような不協和音とともに、暗闇から9人のダンサーが次第にその姿を現した。曲は、ストラビンスキーがロシアバレエ団「バレエ・リュス」のために作ったという「春の祭典」だ。
踊っているのは、ストリートダンスから派生し、和のテイストを加えるなどしながら独自の世界を確立したダンスカンパニー「DAZZLE(ダズル)」。3月7日から東京・赤坂で始まったダンス公演「バラーレ」で、ストリートダンスという枠を飛び出し、バレエでもコンテンポラリーダンスでもない、ましてやジャズでもモダンでもない、ジャンルを飛び越えた新しいダンスの境地へ至ろうとしている。DAZZLEは「美しさや華やかさで人を幻惑する」という意味。その名のごとく魅惑的な舞台を見せている。
バラーレは、歌舞伎俳優で人間国宝の坂東玉三郎さん(64)が初めてダンスの演出を手がけた作品としても注目される。
玉三郎さんとDAZZLEは、玉三郎さんが2012年から芸術監督を務める太鼓芸能集団「鼓童(こどう)」を通じて一昨年夏、出合った。DAZZLEの演技を初めて見て「理由なく感動した」と玉三郎さん。独自の音楽や舞台装置を駆使してこれまで作品を作ってきたDAZZLEが「既存のクラシックの音楽で体一つで純粋に踊ったらどんなニュアンスが出るのだろうか」と、未経験のダンスの演出を申し出たという。
1年前から練習に取りかかった。玉三郎さんは、足しげく稽古場に通い、演出だけでなく振り付けの細かいニュアンスなども指導した。DAZZLEのリーダーで振り付けも担当する長谷川達也さん(39)は、「ダンスを知っている方はもちろん、ダンスを知らない方もこんな美しい作品があるんだというのをぜひ感じていただけたら」と話す。
≪「誰に対して踊るのか」名曲で進化≫
バラーレとはイタリア語で「踊る」という意味。今回の公演はクラシックの名曲3曲で構成され、1曲あたり約20~30分と長い。
最初に演じるのが「春の祭典」。玉三郎さんがDAZZLEの踊りを初めて見たときに真っ先に思い浮かべた曲だという。もともと、ロシア出身の芸術プロデューサー、セルゲイ・ディアギレフが主宰し、パリを中心に活動したバレエ団「バレエ・リュス」のためにストラビンスキーが作曲したといわれる。各時代の各バレエ団が振り付けた歴史がある。長谷川さんは「ダンスを始めて20年。2年目から振り付けをしているが、その中で一番難しいと思える曲」と話す。音数が多く変調子で、それに「踊りを合わせて、同調させるまでに途方もない時間がかかった」と話した。その甲斐あってか、玉三郎さんは「ストリートダンスを基本にしながらもそこにはまらない面白さが出たと思う」と評価する。
次に披露するのが、グスタフ・マーラー作曲の「交響曲第四番第3楽章」。「春の祭典」の次は柔らかい音楽をと選曲された。長谷川さんは「平安なる死」というテーマで物語を考えたらとアドバイスを受けたという。「人生の喜びや悲しみがわき起こり、明るい部分とダークな部分を繰り返す人生のドラマを表現した」。後半、音楽が一層ダイナミックになるところからはメンバー9人に加え24人のアンサンブルが登場、33人のダンサーが一気に踊って死への大団円を迎える構成だ。
そしてフィナーレはブロードウェーミュージカル「タンゴ・アルゼンチーノ」。これまで踊りを造形美としてどうするかを考えて振り付けていたが、「音楽に対して踊りはどうなるのかなど表現者としてもっと深いところを要求された」と話す。
また、今回の作品作りを通して「表現者として素晴らしい考えを持つ方を間近に感じられ貴重な体験をした」としみじみと話していた。さらに「誰に対して踊るのか、独り言になってはいけないなど、わかった気になっていたこともたくさん気づかされた」と振り返る。
稀有なダンスカンパニーDAZZLEが挑戦する新たなダンスの境地。ぜひその進化の過程の目撃者となってほしいと思う。(田中幸美(さちみ)、写真も/SANKEI EXPRESS)