SankeiBiz for mobile

日本軍破った「生ける暗号」 米ナバホ族「コードトーカー」最後の一人死去

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

日本軍破った「生ける暗号」 米ナバホ族「コードトーカー」最後の一人死去

更新

 第二次世界大戦中、日本軍が一度として解読できなかったとされる暗号の作成に従事したアメリカ先住民ナバホ族の男性、チェスター・ネズさんが6月4日、93歳で死去した。米海兵隊が1942年に暗号開発のために最初に採用したナバホ族29人の最後の生き残りだった。文字が存在せず、ナバホ族以外の人には習得が極めて困難な特殊な言葉を駆使し、傍受される可能性が高い無線交信に従事した彼らは「コードトーカー」と呼ばれ、情報戦で日本軍を圧倒し米軍の勝利に大きく貢献した。終戦から来年で70年。歴史の証人の死を多くの関係者が悼んだ。

 特殊な発音で習得不可能

 「私は人生をかけてアメリカとナバホの両方から信頼を獲得できたと思っている。そのことに感謝している」

 ネズ氏は生前、米CNNテレビとのインタビューで、先住民族としての誇りをこう語っていた。ネズ氏はニューメキシコ州の自宅で、眠ったまま静かに亡くなったという。

 先住民が住む準自治領ナバホ・ネーションのベン・シェリー大統領(66)は「29人がコードトーカーに志願したとき、われわれの言葉の持つ力が世界に共有された」との声明を発表し、ネズ氏をたたえた。

 米メディアによると、ネズ氏は激戦地のガダルカナル島のほか、グアム島など南太平洋の戦場で暗号での通信業務に従事した。終戦を迎えた45年にはナバホ族のコードトーカー300人以上が従軍していた。

 ナバホ族がコードトーカーに選ばれたのは、その言語に文字が存在しないうえ、文法構成が複雑で発音も特殊なため、幼少時からその言語を聞いて育った人間でないと習得が不可能とされたためだ。

 「われわれは暗号を作成する際、日常的に使う言葉を使うよう注意した。なぜならその方が覚えやすいからだ」。CNNによると、ネズ氏は2011年のインタビューでこう語っていた。

 ただ、ナバホの言葉に存在しない英単語も多く、言い換えていた。飛行機は「鳥」、爆撃機は「妊娠した鳥」、急降下爆撃機は「タカ」、戦艦は「クジラ」、戦車は「亀」、手榴弾は「イモ」といった具合だ。

 1968年まで機密扱い

 もちろん、単純にナバホの言葉で交信していたわけではない。同じ頭文字の単語を複雑に置き換えて暗号化。それを知らないナバホ族が捕虜になっても決して解読できないようにされていた。

 ネズ氏も生前、「暗号は最も重要な軍事機密の一つとして扱われ、それは、われわれとわれわれの能力に対する信頼の表れだった」と胸を張っていた。

 日本軍の暗号は米軍に筒抜けだったが、ナバホ族の暗号は最後まで解読されることはなかったという。

 暗号はその後も使用する可能性があったため、1968年までコードトーカーの存在そのものが機密扱いだった。ネズ氏ら29人は2001年にようやく当時のジョージ・W・ブッシュ大統領によって表彰され、その偉業が広く知られるようになった。

 02年にコードトーカーと海兵隊員との友情を描いた映画「ウインドトーカーズ」が公開された際に、ネズ氏はこう語り喜んでいた。

 「ナバホ族にとって素晴らしいことだった。こうした理解が文化の壁を越え、長く続くことを望んでいる」(SANKEI EXPRESS

ランキング