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iPS細胞でパーキンソン病臨床へ 京大チーム 2015年申請、開始を計画
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京都大iPS細胞研究所の高橋淳教授らのチームは3月6日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使い、パーキンソン病を治療する臨床研究を2015年初めに申請し15年中にも開始するなど、詳細な実施計画を明らかにした。進行の抑制や症状改善に有望と期待される。実現すれば、iPS細胞を用いた臨床研究では、目の難病患者の網膜を再生する理化学研究所の世界初のケースに次ぎ2例目となる見通しだ。
パーキンソン病は、脳の神経伝達物質ドーパミンを出す神経細胞が減り、手足の震えや体のこわばりが起こる難病。神経細胞の減少を根本的に食い止める方法はない。
臨床研究の対象は患者6人。各患者の血液細胞から作ったiPS細胞を1人当たり数千万個の神経細胞に変化させ、各自の脳に自家移植する。移植後は腫瘍ができないかなどを約1年間観察。介護が必要な重症患者が身の回りのことをできるようになったり、体を動かす薬が不要になったりするなどの効果を見込む。
チームは、京大が安全性審査のため設置予定の第三者委員会に実施を申請。さらに厚生労働省に計画を提出し、専門委員会の審議や厚労相の了承が要る。事実上の臨床研究開始となる患者選定に約1カ月、細胞作製に約半年、細胞の安全性評価に約3カ月かかる。
チームは既に、人のiPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病のサルの脳に移植しドーパミンの放出を確認した。
さらに、感染症などの病原リスクのある動物由来成分のかわりに、加工したタンパク質を使い、従来法の20倍以上の高効率で神経細胞を作るのに成功したほか、神経細胞を約80%の高純度で選別し、移植後に腫瘍ができる可能性を低くした。これをパーキンソン病のラットの脳に移植し症状を改善させており、これらの成果を3月6日付米科学誌電子版に発表した。現在、サルで有効性や安全性の検証を進めている。
高橋教授は「臨床研究が可能になる手法ができた。一日も早く申請したい」と話した。
≪現在は薬の対症療法中心 患者ら望み託す≫
iPS細胞を利用してパーキンソン病に迫る京都大iPS細胞研究所の高橋淳教授らの手法は、これまでの治療法より高い効果が出る可能性がある。現在は薬剤による対症療法が中心で、患者らは臨床研究の実現に望みを託している。
パーキンソン病は、神経伝達物質ドーパミンを出す神経細胞が死滅、減少して起きる。だが詳しい原因は解明されていないのが現状だ。
神経細胞がドーパミンを作る材料となる薬剤「Lドーパ」やドーパミンが結合する受容体の働きを活発にする薬などで、症状は緩和されるが、決め手となる治療法は見つかっていない。中でもLドーパは主流だが、ドーパミンを出す神経細胞がある程度残っていないと効きにくく、疲弊している神経細胞にさらに負荷がかかるため、神経細胞が減ることになりかねない。
薬だけで効果が見られない場合、症状に関わる脳内の特定の部位を壊したり、電極を埋め込んだりする手術も行われる。
一方、高橋教授らの手法は、ドーパミンを出す細胞そのものを増やす。
「全国パーキンソン病友の会」(本部・東京都)の高本久事務局長は「毎日薬を飲み副作用が出る患者もいる。一刻も早くこうした状況を抜け出したい強い思いがあり、京大の臨床研究には非常に関心を持っている」と話す。
≪「再生医療審査委」設置が最初の関門≫
高橋淳教授らの計画が実現するのに鍵となるのは、臨床研究の安全性を審査するため京大が設置を計画する第三者委員会「特定認定再生医療等委員会」だ。高橋教授は2015年初めにも、この委員会へ実施申請する予定で、最初の関門となりそうだ。
厚生労働省によると、これまで再生医療を対象とした法規制はなく、効果や安全性に問題がある治療が広がると懸念されていた。
このため、今年11月に施行される予定の再生医療安全性確保法は、再生医療を行う全ての医療機関に、安全性などの事前審査や国への実施計画の提出を義務付けた。計画を提出せずに治療した場合は罰則を科す。
京大は、委員会の設置を今年6月にも厚労省に申請する方針で、再生医療や法律、生命倫理などの専門家から委員の人選を進めるなど、準備を始めた。京大の担当者は「臨床研究の実現に向け、迅速に委員会を立ち上げる」と話している。(SANKEI EXPRESS)