SankeiBiz for mobile

やりがいのあるビートルズ・メドレー 髙橋大輔

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのスポーツ

やりがいのあるビートルズ・メドレー 髙橋大輔

更新

フィギュアスケート選手、高橋大輔さん(渡辺真一さん撮影)  【冷静と情熱のあいだ】

 いよいよオリンピックシーズン。既に4月からシーズンスタートという気持ちだから、今年は完全なオフは取らず、プライベートでは引っ越しをしたくらい。5月にショート(SP)、フリー(FS)、エキシビションの振付を韓国とカナダで済ませた。6月から徐々にエンジンをかけ、7月はアメリカとカナダで本格的なトレーニング中。シーズンインまで時間はないという意識が強い。

 「苦しくても笑いなさい」

 今季FSはローリー・ニコルの振付で『ビートルズメドレー』。他の候補曲もあったけれど、他は聴かずに迷わずピンときた。でもまさかのビートルズ。自分でも意外だった。そしてまさかのタンゴも入っている。最初ローリーからは彼女のお気に入りタンゴの『カム・トゥゲザー』の提案が来たけれど、この1曲だけでは難しいと相談したところ、実は全体の一部で、『イエスタディ』『カム・トゥゲザー』『フレンズ・アンド・ラバーズ』『イン・マイ・ライフ』『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』のメドレーを提案された。僕はどれも気に入っている。前々から、オリンピックシーズンには皆が知っていて感動できて、そして希望がある曲で滑りたいと考えていたので、まさにピッタリ。

 このメドレーの曲順にローリーも苦心したらしい。それぞれの曲に、色々な才能が集まり、思い出があって、友達や好きな人のことがよみがえり、スケートの歴史に感謝して、紆余(うよ)曲折しながら道はつながっていく、というさまざまな意味が込められ、ローリーからは「とにかく、about love。特に『イン・マイ・ライフ』では練習中も、どんなに苦しくても笑いなさい」と言われた。曲が感動的なだけに、「滑る自分は大丈夫?」と不安が大きい(笑)。

 スケートとしてもさまざまな要素が盛り込まれているから、かなり難しいけれどやりがいのあるプログラム。間の取り方など今までにない新鮮さも感じている。僕はこの数年、ジャンプを飛びやすくするためにつなぎのステップを簡単にするのではなく、音に合った作品としていいものをずっと求めていたので、そういうフラストレーションも解消されているし、自分自身が曲に助けられて滑ることができる感覚もある。

 コンパルソリーと格闘中

 ローリーにはスケーティングのレッスンも受けた。振付よりむしろスケーティングの指摘のほうが細かかった。実はプログラムの中にコンパルソリー(氷に図形を描く「フィギュアスケート」の原点で現在のSPの前身)でS字を描く要素もあり、これはスケーティング・スキルの低さがバレてしまうから(笑)、今はこのコンパルソリーと格闘中。ほとんどの時間をスケーティング練習に割いている。ミリ単位で図形を描くコンパルソリーは体の微妙な感覚が僕にはわからず、ほぼ素人。昔、これで競技をしていた長光(歌子)先生はさすがにうまい。僕はできない自分に腹を立てながらも、スケートの奥深さを実感。スケーティング練習のおかげで、ジャンプの調子もよくなっている。

 ローリーの振付は去年はかなわず、今年ダメ元でのお願いで実現した。もし去年かなっていたら、去年がビートルズになっていたかもしれない。やはりこの曲は今季のタイミングでよかったなと思う。

 せつない中に強さと希望

 SPは宮本賢二先生の振付で『佐村河内守のヴァイオリンのためのソナチネ』。宮本先生とは、今までの何曲かでおもしろいものができそうという予感はあった。提案された3曲全てクラシック系だったけれど、SPには新しさが欲しかったから、ザ・クラシック色の強いオーケストラのものは避け、バイオリンを選んだ。せつない中にドラマチックな強さと希望を感じたのが決め手。宮本先生からのアドバイスは「キレイすぎないように。際どい危ない感じを残してほしいから変にこなれないように」。ジャンプ3本のうち後半に2本入れた構成が今までと違う。

 エキシビションの1曲は『Time To Say Goodbye』で振付は宮本先生。「ベタに狙うつもりで、こんな感じの…」と僕の思いつきだったけれど、他のポップス系なども考えた結果この曲に落ち着いた。タイトルの印象とは違って、「ここから始まる」という歌詞だからいいなと思った。

 ソチオリンピックまでには本当に厳しい現実があり楽観は全くできない。かといって自分を追い詰めすぎず適度なラフさを残しながらやっていきたいと思っている。(構成:フリーライター かしわぎ なおこ/撮影:フォトグラファー 渡辺真一/SANKEI EXPRESS

 ■たかはし・だいすけ 1986年3月16日、岡山県倉敷市生まれ。A型。関西大学大学院所属。

2002年世界ジュニア選手権優勝(日本人男子初)。06年トリノオリンピック8位、10年バンクーバーオリンピック銅メダル(日本人男子最高位)。10年世界選手権優勝(日本人男子初)、07、12年世界選手権2位、12年GPファイナル優勝(日本人男子初)、05~07年と09、11年全日本選手権優勝、08、11年四大陸選手権優勝。06、07、10、11年NHK杯優勝。08~09シーズンは負傷により全試合欠場。

 今季は10月5日ジャパンオープン(さいたま)、10月18~20日スケートアメリカ(デトロイト)、11月8~10日NHK杯(東京)出場予定。www.kansai-u.ac.jp/sports/message/takahashi/

ランキング