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“ダチョウ博士”が認める驚異のパワー 花粉症、アトピー…人類を救う?

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

“ダチョウ博士”が認める驚異のパワー 花粉症、アトピー…人類を救う?

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 ダチョウと化粧水-と聞いて、「花粉症」を連想する人は鋭い。花粉症に悩む人は全国で2千万人以上といわれるが、“ダチョウ博士”の異名をとる京都府立大学の塚本康浩教授がこの冬、花粉症対策として驚異的な生命力を誇るダチョウ抗体を配合した化粧水を企業と合同開発。卵から抽出した抗体を配合した化粧水を顔にスプレーするだけのお手軽さで、「職業柄マスクがつけられない」「息苦しくなる」という人は試す価値がありそうだ。

 “見えないマスク”

 塚本教授と化粧品メーカーのジールコスメティックス(大阪市中央区)が共同開発した化粧水は、ダチョウの卵から抗体を抽出して配合。スプレータイプで、使い方は簡単、顔にシュッと一吹きするだけ。いわば「見えないマスク」をしているようなものだ。しかも、保湿成分配合なのでスキンケアも兼ねられる。もちろん女性だけでなく男性も使える。

 「花粉症にかかったダチョウがいたんですよ。ということは、卵から抗体が取れるのではと考えました」と塚本教授は話す。

 ダチョウの卵から取り出した抗体を花粉症を引き起こすアレルゲンと一緒にヒトの皮膚に塗るという臨床試験を繰り返し、まずは“普通の”布製マスクから製品化した。昨年2月、医療機器メーカーのクロシード(福岡県)と開発した「花粉抗体入りマスク」がそれで、発売と同時に話題に。そして今年2月、ジールコスメティックスと開発した“見えないマスク”の「花粉抗体入りの化粧水」が発売された。

 頭は悪いが生命力は抜群

 「ダチョウのパワーは驚異的ですよ」と塚本教授は目を輝かせながら語る。幼いころから鳥が好きで獣医を目指す。大学院に進み、ニワトリの研究で博士号を取得。やがて、世界最大の鳥であるダチョウを研究室で飼いたくなり、十数年前、神戸にあるダチョウ牧場へ通い始めた。ダチョウの行動を観察するばかりでなく、時にはダチョウを追いかけ回したり、背中に乗ろうとしたり…。

 「あの先生はおかしくなってしまった、と牧場の人たちは思っていたでしょうね。僕にとってはまじめな研究だったのですが…」と笑う。

 来る日も来る日もダチョウを観察し続けて3年が過ぎたが、ダチョウの行動に規則性は全く見いだせない。そこで視点を変えてみた。ダチョウの「驚異的な生命力」に着目したのだ。

 「ダチョウは頭が悪くて不潔な鳥なんですが、傷の治りがすこぶる早い。しかも寿命が60年もある。これはすさまじい免疫力の持ち主だと推測しました。つまり、抗体を作る力も強いんだろうな、と」。ダチョウの免疫力の強さを解明し、抗体生成能力を利用してヒトや家畜の感染症対策に役立てよう-と思い立った。

 平成21年、「世界で初めてダチョウを用いた抗体」に特化した大学発のベンチャー企業を設立。ダチョウの卵から抽出した抗体から、抗体納豆、抗体マスク、抗体フィルター使用の空気清浄機…と数々のユニークな製品を企業と共同開発し世に送り出している。

 中でも、クロシードと開発した「抗体入りマスク」は約7千万枚を売り上げるヒット商品に。かくして塚本教授は「ダチョウ博士」として世に知られるようになった。

 無限の可能性

 実は、花粉抗体入り化粧水の前に、皮膚炎に悩む人のために開発されたゲル状のクリームが昨年2月に誕生していた。現在、アトピー性皮膚炎で悩んでいる人は全国で35万人ともいわれているが、いまだその原因は究明されていない。

 「原因の特定できないかゆみを伴う湿疹が慢性的に起きるのは、黄色ブドウ球菌の毒素が原因ではないかと考えたのです」と塚本教授。ダチョウ抗体入りクリームを作って学生に試してみてもらったところ、「一週間後、ほとんどの学生が『肌の状態がよくなった』と報告してくれました」。

 アンケートでは、学生140人の約3割がアトピーに悩んでおり、クリームを使用した学生の約9割が「効果が認められた」と答えたという。商品化されたクリームは現在、美容皮膚科などでも使用されている。

 共同開発したジールコスメティックスの前田修社長は「クレーム(苦情)0件、リピート率80%以上。化粧品業界において、この数字は驚異的です」と話す。

 塚本教授は、アクネ桿菌が原因のニキビに悩まされる人向けの化粧品も開発。まもなく商品化される予定という。

 「インフルエンザ、HIVなどの感染症やがんをはじめ、水虫や虫歯、脱毛防止…。ダチョウの可能性は計り知れません」。食中毒予防、がん治療、美容など、卵からさまざまな抗体を精製し実用化に向けて研究に取り組んでいる。

 世界一大きい鳥類で生命力が強いダチョウだからこそ効率的に抗体を作ることができる。その卵はニワトリの約30倍あり、ダチョウの卵1個から約4グラムの抗体が作れるという。

 塚本教授はダチョウ抗体の有用性を広く伝えるために講演会などを通して地道に訴え続けている。昨年夏には、「ダチョウの卵で人類を救います」(小学館)を出版した。

 「いい抗体を作るにはいいダチョウを育てることが大事。ダチョウのためにも人間のためにも、これからも研究に勤しみます」と力を込めた。

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