SankeiBiz for mobile

【Bizクリニック】眼鏡店は小売業ではなく外食産業!?

ニュースカテゴリ:企業の中小企業

【Bizクリニック】眼鏡店は小売業ではなく外食産業!?

更新

 □フロンティア・マネジメント 松岡真宏

 小売業界と外食業界で重要な戦略の相違点は、排他性の有無である。排他性とは「Aさんが商品・サービスを購入していると、Bさんはその商品・サービスを同じ時間に購入できない」という状態を指す。スーパーマーケットのように完全なセルフサービス業態であれば、AさんとBさんは同時に大根を購入することができる。一方、客席が10席しかないレストランの場合、10席が客に占められていれば、11人目の客は席につくことができない。後者を「排他性のある業態」と呼ぶ。

 排他性のある業界は、外食産業だけではない。例えば、航空機の客席が決まっているエアライン業界や、客室数が決まっているホテル・旅館業界。また、ページ数が決まっている雑誌制作や、1日の放送時間が放送枠として決まっているテレビ業界なども、排他性を内包した業界である。

 排他性を持っている業界は、席数や客室数などの制約条件を前提とし、販売価格の上下を通じて効果的にユーザーに販売していくことが収益極大化のポイントとなる。この経営戦略は「イールド・マネジメント」と呼ばれる。

 実は小売業界にも、外食産業に近い業界が少なくない。眼鏡小売りやスーツ小売りなどである。眼鏡は最終的に、視力検査をしてレンズを決定し、鼻周りや耳周りの調節など、接客がなければ買うことはできない。スーツの裾直しなども同様である。

 店員の接客が必須な小売りは、スーパーマーケットのような一般的な小売りとは異なる。むしろ外食産業と同様で、店員という一種の「座席」が制約条件となる。眼鏡小売店で接客ができる従業員が2人しかおらず、2人とも接客をしている限り、3人目の客は商品を購入することができない。

 排他性のある小売業では、外食やエアラインと同様に、従業員という「座席」の生産性を高めることが大きな課題である。ローコスト運営のために、従業員を1、2人しか配置していない眼鏡小売店があるが、これは席が1つか2つしかないレストランのようなものであり、非効率この上ない。

 むしろ、このような小型店を廃止し、人通りの多い立地の大型店舗に集約すべきである。家賃は高くても、「座席」としての従業員の生産性を高めることで、収益性を上げられる例が多い。あるいは、時間帯別や日別に商品の価格をこまめに変更して、来店客数を平準化することで、従業員という「座席」の生産性を高めることも可能だろう。

 わが国の産業は、ますます第3次産業の比率が上昇していくことが予想される。一方、第3次産業の労働生産性は必ずしも高い水準にあるわけではないという批判も耳にする。

 経営者は自らの経営資源の中における排他性の有無を確認し、場合によっては外食やエアラインと同様の視座で戦略を見直す必要があるのかもしれない。

                   ◇

【プロフィル】松岡真宏

 まつおか・まさひろ 東大経卒。野村総合研究所、バークレイズ証券、UBS証券、産業再生機構を経て、2007年フロンティア・マネジメントを設立し、代表取締役。複数のアナリストランキング小売り部門でトップを獲得。著書は「時間資本主義の到来」ほか多数。47歳。愛知県出身。

ランキング