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NTT「光卸」法解釈めぐり曲折 “ボタンの掛け違い”どうして起きたのか
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NTT東西の「フレッツ光」の契約数推移 NTTグループの「光サービス卸」が曲折の末にようやく動き出す。鵜浦博夫NTT社長が「法的に何ら問題はない」と自信を示していたのとは裏腹に、サービス提供の道筋ができるまで発表から8カ月を要した。光サービスで競合するKDDIや地方のケーブルテレビ(CATV)事業者などが反発。陳情を受けた自民党の申し入れを待って総務省がガイドラインを策定するという異例の手順を踏んだためだ。ボタンの掛け違いはどうして起きたのか。
「光サービス卸はいわばポテンヒット。天下のNTTがポテンヒットで喜んでいてはだめだ」
自民党・情報通信戦略調査会の会長でもある川崎二郎衆院議員(元厚生労働相)は昨年12月、CATV連盟の幹部にNTTの強引な法解釈を揶揄(やゆ)した。
NTT東西地域会社が提供している光サービス「フレッツ光」は、本来、料金公表が義務づけられており、現在は個人、企業を問わず料金は同じで、企業に割安で提供する“相対取引”はできない。
だが、NTT幹部は総務省や川崎議員らに、電気通信事業法にある「卸役務は相対取引も認める」という条項を盾に、それが可能と説明。卸役務は、公益事業者向けなど例外的なケースを想定して相対取引を認める条項だが、NTTはそれを逆手にとった格好だ。
しかし、川崎議員は「法に触れないとはいえ問題は残る」として衆院選前の昨年10月、調査会で議論を開始。光サービス卸に事実上“待った”をかけた。実現すれば、NTTドコモを含めたNTTグループのほか、多様な事業者が光サービスに割安な料金で参入する可能性がある。これに対してKDDIなど通信事業者は「独占回帰につながる」と猛反発。地方で競争にさらされるCATV事業者は危機感を抱き、川崎議員事務所に陳情に訪れた。
なかでも川崎議員の地元でもある三重県の大手CATV事業者「ZTV」(津市)の田村憲司社長は、タムゲンこと田村元・元衆院議長の弟。田村憲久前厚労相の父でもあり、川崎議員とも昵懇(じっこん)の仲だ。
NTTや総務省にとっては「降ってわいたような議論」だったが、地元有力者の声が調査会の議論開始のきっかけになったのは想像に難くない。
光サービス卸により多様な企業が参入することで、これまで個人や法人に直接販売していたNTT東西の光サービス事業は「コペルニクス的転換」(田中孝司KDDI社長)となる。
思い切った戦略には、フレッツ光の販売低迷の打開と、NTT法や事業法で縛られている分社経営の「機能再編」が急務になっていたというNTTが抱える構造的な問題が背景にある。
フレッツ光(当初は「Bフレッツ」)は2001年に開始後、ブロードバンド(高速大容量)通信サービスの本命として契約数を伸ばしてきた。しかし、新規契約から解約を引いた純増数は07年度の270万件をピークに減少傾向が続き、13年度は75万件にとどまった。
光回線の敷設が可能な「普及世帯」は99%に上るが、実際の利用率は5割に届かず、「大きく増やすのは限界に近い」(NTT東の山村雅之社長)状況となっていた。
光サービス卸を利用して「ドコモ光」の提供を予定しているドコモは今後、NTT東西の個人契約者の受け皿になる。東西は法人向けサービス以外は設備提供が主体の「黒子に徹する」(鵜浦氏)ことになり、光サービスの主体は規制の強い東西からドコモに移る。
NTTが東西から光サービス販売を切り離す機能再編の検討を始めたのは5年以上前。原口一博総務相(当時)が「15年にブロードバンド利用率100%」を目指す「光の道」構想を10年に提唱した。
だが、孫正義ソフトバンク社長が主張するNTT東西の光回線設備の分離が焦点となり、NTTや検討会委員の強い反対で同構想は事実上頓挫した。
鵜浦氏が持ち株会社の傘下に東西やNTTコミュニケーションズ、ドコモなどを持つ分社経営のままグループ内の機能再編を考え始めたのは、「光の道」構想の前だったが、東西を黒子の設備会社に衣替えするのは、皮肉にも大反対した「光の道」構想に似たものとなった。
総務省は20日、調査会の申し入れを受けて、光サービス卸に関するガイドライン案を公表した。取引条件の公正、適正、透明性を求めるとともに料金などの届出制を義務づけた。
さらに「過度のインセンティブ(販売報奨金)」でCATV事業者の設備維持を困難にするような価格競争に歯止めをかけたが、これは調査会の強い申し入れによるところだ。
NTT東西は2月1日から光サービス卸を開始。インターネット接続事業者が2月初旬から相次ぎ自社ブランドの光サービスに乗り出す。
「回り道」とはなったが、NTTの思惑通り進み、目立った反発も収まった。あるNTTグループ企業幹部は解説する。
「(鵜浦社長は)ある程度の摩擦は承知で強引に進めたのではないか。順序立てて法改正から入ったらこんなに早く光サービス卸はできなかった」(芳賀由明)