SankeiBiz for mobile

「第2の松下幸之助」に期待 阪急電鉄などが起業家支援に乗り出す理由

ニュースカテゴリ:企業の経営

「第2の松下幸之助」に期待 阪急電鉄などが起業家支援に乗り出す理由

更新

阪急電鉄が開設する起業家向け会員制オフィス「GVH#5」  本社機能の東京移転などによる地盤沈下が続く関西で、鉄道事業者が起業家支援に力を入れ始めている。阪急阪神ホールディングスでは傘下の阪急電鉄が昨年11月、大阪・梅田に起業家の支援施設を開設、阪神電気鉄道も平成24年から人材育成や企業支援の拠点を運営する。企業や産業が生まれ、関西経済の活性化につなげるだけでなく、長い目でみると新企業が沿線に本社を構えることで鉄道利用者も増えるとみているためだ。松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助氏のような大物経営者の登場を期待している。(橋本亮)

 切磋琢磨する“卵”

 大阪・梅田の阪急梅田駅から徒歩で約2分。阪急電鉄が「阪急ファイブアネックスビル」に開設した起業家向け会員制オフィス「GVH #5(ジー・ブイ・エイチ・ファイブ)」では将来の経営者の“卵”たちが切磋琢磨している。

 ビル11階にあるレンタルオフィス、交流サロンスペースは仕切りが少なく、開放的な空間が特徴だ。起業家同士の交流を促し、人脈やアイデアを膨らませられるように工夫、5階部分は個室ブースが中心のオフィススペースとなっている。

 オフィスは24時間使用可能で、図書館のように自由に席を使用できる。事業資金の出し手である投資家とのマッチングに加え、弁護士や会計士ら専門家から企業経営などに関するアドバイスを受けることができる。月額1万8千円(税抜き)からの低料金で利用できるため、「ノウハウや資金力の乏しい起業直後の強い味方となる」(阪急電鉄)。現在は3社が契約し、問い合わせも多く寄せられているという。

 異業種交流も活発化

 梅田では阪神電鉄も平成24年1月から、人材育成や起業支援の拠点として「梅田MAG(マグ)」を運営している。次世代を彩る知性・感性豊かな人材が自発的に集い、「未来」を創造する磁場(Magnetic Field)となることを目指したという。

 梅田MAGでは経営戦略セミナーの開催し、起業希望者の知識向上を図っている。起業家、大阪で働くビジネスマンらの異業種交流を通じたネットワークづくりも施設開設の大きな目的だ。

 一方、24年4月にオープンし、起業家や研究者、芸術家らの業種を超えた交流拠点として定着してきた複合ビル群「グランフロント大阪」の中核施設「ナレッジキャピタル」の運営会社にも阪急電鉄は参加している。

 サロンの会員数は昨年末時点で約2千人に達し、当初の想定を上回るペースで会員が増えている。「会員同士で起業に至るケースも出てきた」(運営会社)といい、産学官連携の新技術開発も進むなど、一定の成果を出しつつある。

 東京一極集中に危機感

 そもそも、阪急電鉄などが起業家支援に乗り出した背景には、武田薬品工業やサントリーホールディングスといった関西発祥の有名企業が相次いで本社機能を東京に移す中で、「起業家も東京に一極集中しつつある」(阪急電鉄の担当者)との強い危機感がある。

 総務省の24年の就業構造基本調査によると、都道府県別の起業家数(個人事業主を除く)は東京都の22万5千人に対し、大阪府は10万6400人と、半分以下にとどまっているのが現状だ。

 その原因は単なる企業や情報の集積の差ではない。大阪の方がオフィスの賃料や生活費が安いなど、起業家には大きな魅力があるものの、「東京に比べて起業家や起業を目指す人の交流の場が少なく、支援体制も整っていなかった」(同)ことが大きい。「GVH #5」や「梅田MAG」などはまさに、その穴を埋めるための仕掛けといえる。

 阪急電鉄や阪神電鉄が起業家支援施設の運営によって大きな利益をあげることはない。それらの施設で育った起業家たちが自社の沿線に本社を構えることで新たな雇用が生まれる。その結果、鉄道利用者が増え、沿線も活性化するという長期的な視点での事業だ。

 サケが生まれ育った川に戻るように、施設で“孵化”した企業家たちが今後、関西を出ても大きく育って戻ってくれば、低迷を続ける関西経済の救世主となるかもしれない。

ランキング