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パナソニックが開発「魔法の砂」、乾燥地の農地化で威力 食糧問題解決に道

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パナソニックが開発「魔法の砂」、乾燥地の農地化で威力 食糧問題解決に道

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パナソニックが開発した撥水砂。水をかけても染み込まないのが分かる  パナソニックが開発した「魔法の砂」が注目を集めている。砂粒表面に特殊な膜を形成し、水の浸透を防ぐ「撥水(はっすい)砂」だ。乾燥した土地の土壌回復や農地化で威力を発揮し、深刻化する環境問題や食糧問題の解決に道を開くと期待されている。

 収穫量の増加を期待

 普通の砂と撥水砂。両者の違いは、単に見比べただけでは全く分からない。

 だが、上から水をかけてみると違いがはっきりする。普通の砂では水がどんどん下へ染み込んでいくのに対し、撥水砂は時間がたっても水の固まりが乗ったままだ。

 ともに砂粒の大きさは直径約200マイクロメートルと変わらないが、実は撥水砂には砂粒一つ一つの表面に特殊な膜が形成されている。同様に見えるのは、膜の厚さが数ナノ(1ナノは10億分の1)メートル、つまり1ミリの100万分の1しかなく、人間の目はおろか、顕微鏡でも確認できないほど薄いためだ。

 砂に水をかけると、通常は砂粒の隙間を通って染み込んでいく。これに対し撥水砂は砂表面の撥水力に、水の表面張力が加わって浸透を防ぐ。一方で、隙間自体は空いているため、酸素などの気体は通すという。

 撥水砂の効果が最も発揮されそうなのが、乾燥した土地での農業だ。

 乾燥地帯では、塩分を多く含んだ地下水が吸い上げられ、地表に届くため、植物が枯れやすくなる。そこで、地中に撥水砂の層を作ってやれば、雨水を長期間保持できるうえ、塩害にもさらされずに済む。保水シートを敷く場合と違い、通気性は維持されるため、植物の呼吸を妨げることもない。

 撥水砂の基本技術は以前からあり、製品に採用した実績もある。同社は1994年に発売したIHジャー炊飯器で、内蓋の汚れ防止用に初めて採用。内蓋を特殊な液体に浸すことで表面をコーティングし、汚れにくくした。オーブントースターやオーブンレンジのガラス扉にも用いられたことがある。

 その後、材料の改良で対応するようになり、いったん出番を失ったものの、同社の基礎研究を担う先端研究本部の美濃規央(みの・のりひさ)主幹研究員が粘り強く地道に研究を続け、応用可能性を探ってきた。

 美濃氏は、この技術が農業に役立てられると考え、京大大学院農学研究科に相談。「雨水を保持できるだけでなく、塩害防止にも役立つのでは」とアドバイスをもらい、2010年に試験農園で農作物の栽培実験を始めた。

 この試験農園は、土の中に傾斜のある撥水砂の層を設け、その上に配水管を通してある。傾斜をつけたのは、撥水層がせき止めた水をタンクで回収し、栽培に再利用するためだ。この仕組みを適用すれば、乾燥地帯でも、塩害を防ぎつつ、わずかな雨量で栽培できる。

 しかも、回収した水は肥料を含んでいるため、「肥料の節約や収穫量の増加も期待でき、肥料の排出による環境悪化まで防止できる」(美濃氏)という。昨年行ったトマト栽培では、収穫量が40%ほど増えたという。

 撥水加工を施すにはノウハウこそ必要だが、特殊な装置は必要ないという。現地で加工を施せるようになれば、加工費用は1トン当たり数千円に抑えられるとみている。

 「地球温暖化や過剰開墾によって、陸地の4分の1で乾燥地化が進んでいるとされる。この技術が問題解決に役立てば」。美濃氏はそう強調する。

 水不足解消にも一役

 魔法の砂の応用可能性はそれだけにとどまらない。

 道路の下に敷けば、長時間水を蓄え、路面温度を低く保てるため、ヒートアイランド効果を抑制できる可能性がある。砂粒の隙間を気体だけが通り抜ける性質を利用し、水蒸気だけを通す仕組みを海水淡水化設備に取り入れれば、水不足解消に一役買いそうだ。

 美濃氏は、半導体製造に使われる加工プロセスの研究が専門だ。基礎研究が仕事とはいえ、農業問題や環境問題にも目を向けるあたり、家電から電子部品、住宅設備まであらゆる製品を手がけるパナソニックの社員ならではともいえる。

 「パナソニックの創業100周年にあたる18年に実用化できれば…」。今月いっぱいで定年を迎える美濃氏は、壮大な夢を後進に託す。(井田通人)

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