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シャープで戦犯扱いされる「液晶」部門 黒字転換で緩む内部統制

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シャープで戦犯扱いされる「液晶」部門 黒字転換で緩む内部統制

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 経営再建中のシャープで、主力の液晶パネル事業を巨額赤字の元凶となった戦犯として断罪する風潮が蔓延している。社内の評価では電子デバイスと液晶パネル部門が下位に並び、本社の会議で一方的にやり玉に挙がるなど経営層にも“液晶アレルギー”が根強い。本社が上意下達で事業に介入することも少なくなく、それは本社の上層部が市場を顧みずにイケイケの拡大路線を押しつけてきた過去の手法とも重なる。取引業者には「本社が無理な値下げや納入中止を指示した暗黒時代に逆戻りか」と警戒感が広がり始めた。

 黒字転換も評価は最下位

 「液晶は目標に届いてないやないか」

 シャープ本社での会議で最近、こうして液晶パネル事業が頭ごなしにやり玉にあがるケースが増えているという。

 シャープは「身の丈」を超えた規模の液晶事業への投資と、その後の販売不振により抱えた大量の在庫が巨額赤字と経営危機を招いたといわれている。ただ、平成26年3月期の業績をみると、液晶パネル事業は営業損益が前期の1389億円の赤字から415億円の黒字へと1年で1800億円も改善。シャープ全体の3年ぶりの黒字転換に貢献している。

 さらに、高精細で低消費電力の液晶パネル「IGZO(イグゾー)」は、スマートフォン(高機能携帯電話)向けなどへの販売が好調。IGZO技術を応用して円形や波形など自由な形状に設計できる新型ディスプレーも開発しており、将来の成長を支える反転攻勢の芽を育んでいる。

 それでも同期の事業部門別評価では、太陽電池やスマホなどの通信システムが最上位の「S」ランク、複写機などが続く「A」ランクに位置付けられる一方、液晶デバイスは「B」ランク、電子デバイスは最低の「D」ランクに甘んじた。事業ごとの評価もスマホなどが「S」ランクになったが、用途別に20以上あるディスプレーやデバイス部門の大半が平均点以下の「B」「C」「D」の落第点に沈んだ。

 この社内評価は中期経営計画で掲げた目標の達成度を基準にしたとされるが、「チャレンジングな目標を設定しているのは液晶くらい。残りの事業部門は前期比でほぼ横ばいの目標設定で守りに入っている姿勢が目立つのだが…」との声もある。

 危機の本質

 あるシャープOBは「確かに、経営危機の主因は液晶パネル事業の不振だが、なぜそうなったかの総括がない。市場動向の分析を度外視したイケイケ戦略や身勝手な商売が墓穴を掘ったことの反省が十分でないから戦犯への懺悔の強要につながるのでは…」と手厳しい。

 シャープは19年、生産規模の拡大で韓国勢とのコスト競争力の勝負に出るため堺市に世界最大級の液晶パネル工場の建設を決断したが、すでに液晶テレビの価格下落は進み、市場も鈍化の兆しをみせていた。これら市場の動向と予測を踏まえ、社内にも世界最大規模の生産能力の工場建設に対し「パネルはきちんと売り切れるのか」と不安視する声はあったが、経営トップは「大型の液晶テレビ需要は増えるはずだ」との見通しを変えることなく、強気の拡大路線を修正することはなかったという。

 そして総額4300億円を投じた世界最大規模の工場の稼働前年の20年にリーマンショックが起きた影響で需要が激減。円高と韓国ウォン安が追い打ちともなり、サムスン電子などとの競争に敗北。液晶パネルの大量の在庫を積み上げる結果を招いた。

 アナリストは「危機を招いた舞台は液晶パネル事業部門だが、経営判断の基になった市場動向の予測などに甘さがあり、そもそも当時のトップが経営判断を下す際に市場動向をきちんと見極めたかという問題も直視すべきだ」と指摘する。

 暗黒時代の悪弊

 液晶テレビが売れに売れた絶頂期、シャープの商売には強引さや身勝手さが目立った。ある関係者は「すべてとは言わないが、多くが現場を見ていない本社のエライ人たちが“机上の空論”で指示してきたことを事業部門が押し返せなかったことで起きた」と打ち明ける。

 堺工場は当初、パネルの販売先の確保という意味もあってソニーと共同出資する合弁会社で運営する予定だったが、シャープの液晶テレビ販売が好調なときに自社向けの液晶パネルを優先してソニーへの出荷量を落としたことがあり、ソニーの不信感につながった。結局、ソニーとの共同出資は破談となった。

 別の大手家電の調達も滞らせたこともあり、この会社の幹部は「自分の目の黒いうちはシャープからパネルは買わない」と激怒したこともあるという。

 液晶パネル事業が断罪されていることについて高橋興三社長は「知らない。液晶はごっつい稼いでくれているので、工場に何度も行って『よくやってくれた』と言っている」と話す。しかしトップの知らないところで、液晶パネル事業を戦犯としてスケープゴートにされており、「液晶アレルギーを持って厳しくあたる経営層もいる」(関係者)という。

 ただ、材料メーカーや装置メーカーなど取引業者は敏感だ。それは、かつて液晶パネル事業部門への本社からの指示で無理な値下げや突然の納入ストップなど強引な要求を突きつけられてきたからだ。その暗黒時代を知る取引業者は「黒字転換で危機感が緩み、巨額赤字につながった過去の経営との決別の意識も後退したのではないか」と戦々恐々としている。

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