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地ビール急伸、低迷市場を刺激 ネットなど販路拡大、好み多様化も追い風
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地ビールメーカーの出荷量 国内のビール市場が縮小する中、中小メーカーによる地ビール、クラフト(手作り)ビールの販売が急速に伸びている。ネット通販で人気が高まっているほか、外食やコンビニエンスストアなど小売店でも取り扱うケースが増加。業界“最大手”のヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が大幅な増産に踏み切るなど勢いは加速するばかりだ。
「倍々ゲームという感じ。市場はまだまだ伸びる」
そう語るのは、サンクトガーレン(神奈川県厚木市)の岩本伸久社長。日本でビール醸造免許の規制が緩和される1994年の約1年前から米国で地ビール生産を始めた老舗で、97年から本格的に日本で生産を開始した。
当時の地ビールブームで販売を伸ばしたが、やがてブームが下火になると「販売するところがなくなった」(岩本社長)ため2000年に免許更新を断念した。それでも03年に再開し、06年のバレンタインデー向けに販売したチョコレート風味の「インペリアルチョコレートスタウト」が話題となって瞬時に完売。百貨店の売り場に行列ができる復活劇を遂げた。
「ビールマニア以外に、女性客が増えた」(同)という。こうした新しい客層を開拓しようと、桜の花と葉を使った桜もち風味のビール「さくら」など各種新商品を相次ぎ投入。「ネット販売が好調。取り扱うビアバーなども増えている」と語る岩本社長は、かつての地ビールブームとは市場環境が大きく変化してきたのを実感している。
フルーティーな香りの「よなよなエール」などが人気のヤッホーブルーイングは「楽天やアマゾンでの販売量は、大手メーカーも含めて最も多い」(広報担当)。全国のローソンでも販売が始まり、「ここ数年は売り上げは順調。前期(12年12月~13年11月期)は前々期比約50%増。今期も同程度の伸びが期待できる」(同)という。
販路拡大とともに「ビールの多様性が受け入れられてきた」(同)のが販売増の理由。この傾向は続くとみて、長野県佐久市の醸造所で増設工事を行っており、今夏以降、従来比1.7倍の生産が可能になる。
東京商工リサーチが昨年9月に実施した調査によると、昨年1~8月の出荷量が前年を上回った地ビールメーカーは全体の8割強で、累計出荷量は前年同期比14.3%増だった。増加理由は「飲食店、小売業者などの扱い店が増加」が4割超。こうした店舗やメーカーがタッグを組んだPRイベントも盛んだ。
一方、「クラフトビールは世界的なムーブメント」と指摘するのは、12年にゆずや山椒(さんしょう)という日本の香辛料を使用した「馨和 KAGUA」で新規参入した日本クラフトビール(東京都港区)の山田司朗社長。海外進出に意欲的で、今月には新ブランド「Far Yeast」の第1弾商品を発売する。
同社は、日本でも和食店や百貨店に販路を広げる一方、すでに香港、シンガポール、英国などで販売を開始。今夏には米国に上陸する予定だ。日本では1%に満たないクラフトビールのシェアだが、米ではすでに6%超。「さらに年率10%以上の勢いで伸びている」(山田社長)だけに期待が膨らむ。
規模の小さい日本市場は裏を返せば、個性的なビールによる市場開拓の余地が大きいといえる。中小メーカーの活躍が米国のようなムーブメントとなれば低迷するビール市場全体に刺激を与えることになりそうだ。(池誠二郎)