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「光の道」構想は何が問題なのか 目標100%達成ほど遠い状況
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「世界最高水準の情報通信基盤の実現」に向けた議論が総務省の情報通信議会特別部会で始まった。NTTに対する規制緩和が話題になっているが、最大の焦点は1985年の通信自由化以来、30年間継続してきた競争政策の枠組みを抜本的に見直し、市場の変化を見据えた新たな競争促進の道筋をつけることだ。急速に進化する技術の裏で浮き彫りになってきたネット社会の危険回避策も重要課題だ。
わが国の通信市場開放は、米国や英国と違い、民営化したNTTの資本分離を行わず、行政がNTTに設備を開放させて競争を促してきた。その結果、数多くの新規通信事業者(NCC)が登場し、多様なサービスが生まれたが、その後10社以上が淘汰(とうた)された。最近では第4の携帯電話事業者イー・アクセスが資金難からソフトバンクの傘下に入り、携帯電話市場は3社寡占に逆戻りした。
新規参入によって市場競争が進展すれば事業者が集約され、再び寡占化が進むのは、米国の携帯電話市場をみても明らかだが、競争政策のジレンマでもある。
総務省(旧郵政省)は、持ち株会社形態で実質的な一体経営のNTTに対して活動を規制する一方、設備を開放させることで一定の市場競争を確保してきたが、NCCには規制下のNTTでも巨大な壁に変わりない。ソフトバンクがサービス提供に不可欠な加入線などボトルネック設備の分離を求めたのが3年前の「光の道」論議だった。
「光の道」構想は、2015年をめどに光サービスを中心としたブロードバンド(高速大容量)の利用率100%を目指し、そのためにボトルネック設備をどう開放すべきかが焦点となった。現在、光ファイバーの敷設可能世帯こそ9割を超えたものの、サービスの普及率は6割強にとどまっている。最終的に、NTTのボトルネック設備部門は分離せず、「機能分離」という企業内のファイアウオール(情報隔壁)で設備貸し出しの公平性を確保。それらの順守状況を3年後に検証することになっていた。
それを受けてスタートした今回の特別部会だが「光の道」という当時の報告書に用いられた言葉は姿を消した。「世界最高水準」や「2020年代に向けた情報通信政策」など壮大な看板が掲げられているが、当時の総務省幹部も評価していたブロードバンド普及100%の目標が達成にほど遠い状況なのは、何が問題なのか。
山間部や離島の全てを光ファイバーで結び、世帯の固定通信だけで100%普及を目指すのは非現実的だ。
3年前の論議は固定通信設備のあり方に偏重したが、今回は市場の変化を反映し移動体サービスにシフトすることが確実。地域や業務範囲でNTTを分社化した競争政策や、固定電話のユニバーサル(全国均一)サービス義務が時代にそぐわないのは誰でも分かる。
巨大NTTの規制を緩めつつ新規参入や新サービス創出を促すという、矛盾をはらむ競争政策の解は無線と固定通信の融合にありそうだ。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催はまさに「世界最高水準」の情報通信基盤を試す好機だが、ブロードバンド普及100%のために何が必要ないのか、まずはそこから始めるべきではないか。(編集委員 芳賀由明)