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盛り上がり欠くEV、充電普及に温度差 トヨタとホンダの本命は燃料電池車
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自動車4社の充電スタンドをめぐる連携内容 トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車の4社が電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHV)の充電スタンドの普及を共同で進めることが先月末に決まった。経済産業省が普及の後押しとして、2012年度の補正予算で1005億円の補助金を計上したことに応え、自動車業界を挙げてインフラ整備の拡充に乗り出すためだ。
ただ、肝心のEV、PHVの販売の盛り上がりは今ひとつ。燃料電池車を次世代の“本命”とみるトヨタとホンダは、EV普及について懐疑的な見方を崩しておらず、ホンダにいたっては日本では一般販売すら始めていない。両社とも経産省の要望で重い腰をようやく上げた格好で、普及に意欲を見せる日産、三菱自と温度差があるのが実情だ。
ホンダは、6月下旬からPHV「アコード プラグイン ハイブリッド」の販売を開始した。
EVも昨年8月から「フィットEV」を発売している。同社は、1980年代後半から技術開発に取り組み、96年に「EVプラス」を発表するなど歴史は古く、技術の蓄積も多い。フィットEVのフル充電での走行距離は225キロと、日産が「リーフ」を今年1月に一部改良する前までは走行距離を25キロ上回っていた。
ただし、ホンダはアコードPHV、フィットEVとも一般販売はしておらず、自治体や企業向けにリース販売しているのみ。アコードPHVについては年末にも市販化すると取り沙汰されているが、あくまでも個人向けリース販売にとどまるもようだ。
「充電インフラ設備が整っておらず、普及が難しかったが、今回の連携で新しい戦略が描ける」(ホンダ関係者)と話すが、額面通りに受け取る関係者は皆無。伊東孝紳社長が「燃料電池車の普及までは間違いなくHV(ハイブリッド車)が主流だ」と語る通り、燃料電池車の開発に照準を合わせた動きを加速させており、7月には米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を発表した。
今回の充電インフラ整備に向けた協力体制は、商品の幅を維持するための連携だが、「お付き合いの一環」(自動車メーカー幹部)の側面が大きいようだ。
トヨタにとっても、状況は同じだ。当初は「HVの次はPHV」と位置づけようとしたが、「大規模マンション1階に充電設備があっても、充電が完了するまでの時間が長いため、住民同士で取り合いになる。都市部では普及は難しい」(トヨタ幹部)という判断に傾いた。
また、「HVが売れている。ガソリンも入れつつ、充電もしなければならないPHVを無理に拡販する必要はない」という理由から、PHVの可能性を感じつつも、ホンダと同様に「次世代技術の本命は燃料電池車」(内山田竹志会長)と言ってはばからない。国内販売においても、PHVは昨年1年間で1万970台と低迷している。
ただ、トヨタは「1日の走行距離が決まっている配送用のトラックなどでのEV需要は一定数ある」(小木曽聡常務役員)としており、グループ会社の日野自動車とともに開発は継続していく計画で、今回の充電スタンドの拡充への協力は、こうした理由もあって決断したようだ。
もっとも、「経産省の補正予算に計上された肝煎りの事業に、業界トップが協力しないという事態は許されなかった」(充電スタンド事業者)との声は根強い。
一方で、日産自動車、三菱自動車にとってトヨタ、ホンダの参画はまたとない追い風となる。
これまでEV、PHVは走行距離や充電スタンドの少なさが普及のネックといわれてきた。今回、「急速充電スタンド」を4000基、普通充電スタンドを8000基にそれぞれ増やし、現状の3倍になれば、低迷が続くEV販売の起死回生の一打になる可能性がある。
充電スタンドの設置業者は、「車が売れないから、充電整備が進まない。充電整備が進まないから、車が売れないという鶏と卵の議論からようやく前に進める」と、安堵(あんど)の表情を浮かべる。
ただ、課題は少なくない。有料充電サービスを提供する「ジャパンチャージネットワーク」の担当者が「設置した後も電気代や人件費がかかり、1日8回は充電しないと、採算が合わない」と話す。
現在は、急速充電スタンドを利用するに当たり数百円の料金を徴収する形が増えているが、1日当たりの利用回数は、ほとんどが1~2回で、「単純に車が売れずに、スタンドばかり増えれば、利用がゼロのスタンドも出る。車の普及とスタンド台数の歩調を合わせるべきだ」と危惧する声も多い。(飯田耕司)