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値下げ決断に悩む「Wii U」 任天堂・岩田社長の“自縄自縛”
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任天堂・岩田社長 任天堂の据え置き型ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」が、値下げの決断を迫られている。
米調査会社NPDがまとめた1月の北米ゲーム販売台数が、わずか6万台弱と他社の据え置き型ゲーム機を含めても、過去最低の水準に落ち込んだためだ。ソニーが年末に次世代ゲーム機「プレイステーション(PS)4」を発売すると発表し、今年のクリスマス商戦は激しい競合が想定される。それだけに、遅くとも年末までには値下げに踏み切らざるを得ない状況だ。
NPDがまとめた米国小売業の1月のゲーム機販売台数(5週間)は、ソニーのPS3が約20万1千台、マイクロソフト(MS)のXbox360が約28万台となったが、昨年11月に発売されたばかりのWii Uは約5万6千台と大幅に減少した。
米国のゲーム市場は、日本の2~3倍の規模を持つ世界最大のマーケットだ。クリスマス商戦の反動で、1月の消費が落ち込む傾向が強いが、Wii Uの場合、発売直後の11、12月も販売台数は月10万台前後にとどまっている。
任天堂の岩田聡社長は北米市場での販売が「事前の想定通りに推移しなかった」としたが、前月比でほぼ半減となる1月の低迷は、文字通り“想定外”の落ち込みだ。
「Wii Uは魅力を理解してもらうのに、なかなか時間のかかる機械だ」
スーパーマリオブラザースの“生みの親”として知られる任天堂の宮本茂専務は、経営方針説明会でこう語った。だが、時間をかけて売り上げ回復を待つ余裕は得られそうもない。
「PSの世界を強化することで、魔法の体験を生み出せる」
米ニューヨークで20日に開かれたソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の発表会。PS4の年内発売を発表したアンドリュー・ハウス社長はこう強調した。同様にMSもXboxの次世代機を年内に投入するとみられている。今年のクリスマス商戦は、例年以上に販売競争が激化する見通しだ。
各社は新型ハードの発売にあわせて、人気の高いゲームソフトの新製品も投入する。だが、ハードの売り上げを牽引(けんいん)する人気ソフトは開発に時間がかかるため、ハードメーカーによる有力ソフトの囲い込み競争が激しくなるのは確実だ。
ハードの普及が進まなければ、ソフトメーカーも離れていく以上、任天堂は早期にWii Uの販売台数を底上げする必要がある。
すでに欧州や北米の小売店からは、Wii Uの値下げを求める声も上がり始めている。任天堂が海外市場の本格的な攻略を考えた場合、早ければ今夏、遅くとも秋には値下げに踏み切る可能性がある。
ただ、任天堂が値下げの決断を下すには、「ファン」と「投資家」という2つの大きな障害を超えなければならない。
平成25年の経営方針説明会で、岩田社長は再三、「(Wii Uの)値下げは予定していない」と強調した。
かつて、販売不振だった携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」をテコ入れするため、発売からわずか半年で異例の値下げに踏み切り、当初、購入した熱心なファンから「買ったばかりなのに」「お金を返してほしい」などと、厳しい批判の声があがったことは記憶に新しい。
このときは、公式サイトで岩田社長がファンに謝罪し、役員報酬をカット。さらに値下げ前の購入者を対象にソフト10本を無償で配信するなど対策に追われた。発売間もない期間で値下げを繰り返せば、「消費者の信頼を損ない、『遠からず値下げするだろう』と買い控えるファンを増やす」(関係者)ことにもなる。
もうひとつ、岩田社長は来期の営業利益1千億円の達成を、自らの進退をかけた「コミットメント(公約)」として掲げた。
Wii Uは定価で販売しても“赤字”がでる「逆ざや」が生じているうえ、値上げ前の在庫を抱えた小売店に対し、値下げ分の“補償金”が必要になる。値下げをした場合、営業利益1千億円の達成は極めて困難になる。
値下げは避けられないが、容易には踏み切れない自縄自縛に陥った任天堂。将来につながる決断を岩田社長が下せるかどうか、が再生の大きなカギを握る。