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“黒船”大阪三越伊勢丹なぜ大苦戦? JR西と三越伊勢丹に不協和音

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“黒船”大阪三越伊勢丹なぜ大苦戦? JR西と三越伊勢丹に不協和音

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大勢の買い物客でにぎわったJR大阪三越伊勢丹の昨年の初売り=平成24年1月2日、大阪市北区(志儀駒貴撮影)  JR大阪三越伊勢丹の運営をめぐり、親会社のJR西日本と三越伊勢丹ホールディングス(HD)の間で不協和音が生じている。

 売り場を縮小して専門店をテナントとして誘致しようとするJR西に対し、三越伊勢丹は真っ向から否定。収益改善を急ぐJR西と過去の成功体験にこだわる三越伊勢丹の溝は大きいが、そこに消費者視点が欠落しているとの批判も聞こえてくる。

 「黒船」大苦戦。予想以上の売り上げ低迷

 日本の百貨店で最も歴史のある「三越」と、ファッション性の高い店づくりで強みを持つ「伊勢丹」。

 平成23年5月、両社初のダブルネームの店舗としてJR大阪駅内にオープンしたJR大阪三越伊勢丹。開業時には「黒船襲来」などと騒がれたが、オープン翌月の6月からすでに売り上げは低迷していた。

 上質感を演出した店づくりは、大阪の消費者には近寄りがたい印象を与え、初年度の売上高は目標の6割にとどまった。

 そこで24年4月以降、「3150円均一」など均一セールを随時開催し、「お値打ち感」を打ち出した結果、同9月以降の単月売上高が前年同期比でプラスを確保。今冬の歳暮売り上げも前年比2ケタ増がほぼ確実だが、それでも25年3月期の売上高見込みは目標の340億円には届かない。

 専門店vs自主編集

 開業以来、厳しい状況が続く中、再建策として隣接するJR西のファッションビル「ルクア」の人気専門店を誘致する案が浮上。JR大阪三越伊勢丹の運営会社株60%を保有するJR西の真鍋精志社長は「いろんな可能性を検討する。専門店も選択肢のひとつ」と述べ、一連の再建案について否定しなかった。

 ところが、同じく40%の株式を持つ三越伊勢丹HDの大西洋社長は産経新聞の取材に対し、「売り場の縮小や撤退は考えていない」と否定。再建策をめぐる見解に齟齬が生じている。

 24年12月中旬、JR大阪三越伊勢丹の運営会社で再建策についての話し合いが持たれた。

 JR西側は、三越伊勢丹側に「阪急百貨店にはできないことをやってもらいたい」と要請した。

 これに対し、三越伊勢丹側は「東京・新宿でやっている店づくりは、うちでしかできない」と反論。その店づくりとは、ブランドにとらわれずにバイヤー(買い付け担当者)の力量で売れ筋商品を並べる「自主編集売り場」。だが、ブランド志向の強い関西の消費者に、自主編集売り場が支持されるかどうかは未知数であり、結果的に開業以来、支持されたとは言い難い状況が続いている。

 再生のキーワードは「現場力」?

 JR大阪三越伊勢丹が苦戦する一方、他のJR駅ビルの百貨店はいずれも好調に推移。JR東海が名古屋駅に建てた駅ビル「JRセントラルタワーズ」に、平成12年に開業したジェイアール名古屋高島屋。23年3月以降、単月の売上高では地域一番店の松坂屋名古屋店を上回る月が増加している。

 開業当初、ジェイアール名古屋高島屋も苦戦したが、JR東海は「鉄道会社は流通に詳しくない」(同社幹部)と立て直し策はすべて同店の運営会社に委ねた。このJR東海の「カネは出すが口は出さない。責任はJRが取る」スタイルに対し、JR西は「カネも出すし、口も出す」手法だが、百貨店の現場にとってはJR東海方式がやりやすいのは明白だ。

 大阪・北浜。東京・兜町と並ぶ証券の街に、かつてに三越大阪店があった。上得意客の大半は60歳以上だったが、JR大阪三越伊勢丹の品ぞろえは若すぎるという。同店の関係者は「売り場のイメージが違いすぎるとのおしかりを受ける」と話す。

 開業から約1年8カ月が過ぎても、大阪の街には浸透せず、売り上げが伸び悩むJR大阪三越伊勢丹。親会社同士の確執まで表面化する中、成長軌道に乗せるためには、固定概念や先入観を取り除いた上で、地域性を重視した新たな百貨店モデルを示すことが必要となる。(松村信仁)

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