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3メガ銀、国債急落“Xデー”に警戒感 「しっかりしてくれ」政府にため息

2012.3.9 05:00更新

 日本国債の保有リスクに国内の銀行が警戒感を強めている。欧州債務危機の深刻化に伴い、欧州各国の国債を大量に抱えた金融機関は信用不安に陥った。政府の債務残高が2011年度末に1000兆円を超える見込みの日本も「対岸の火事」ではない。1月の経常赤字が過去最大になるなど国債を買い支える資金力の先行きに懸念も芽生えている。国債価格が急落(金利は急騰)する「Xデー」に備え3メガバンクは危機管理に乗りだした。

 「Xデー」に備え計画

 「(さまざまな条件が)一つ一つ崩れるとどうなるか、気をつける必要がある」。全国銀行協会の永易克典会長は2月中旬の会見で、国債の保有リスクを意識していることを認めた。

 永易会長が頭取を務める三菱東京UFJ銀行は、国債急落を想定した危機管理計画を昨年末に策定。経済成長率や経常収支、為替など国債価格に影響をもたらす経済指標に変化があれば、損失を抑えるために国債売却などの対応をとる内容だ。

 三菱東京UFJ銀が保有する日本国債は約42兆円にのぼり、国債が急落すれば膨大な損失が生じかねない。国債の約4割は国内の銀行が保有しており、こうした想定は、みずほフィナンシャルグループや三井住友フィナンシャルグループなども用意しているとされる。

 もっとも、政府の債務残高は国内総生産(GDP)比で約2.3倍にのぼりながら、国債の10年物利回りは8日現在、0.985%と1%を割り込む水準が続いている。現状では「大きなリスクを感じていない」(大手行)との楽観論が支配的だ。

 支える土壌崩れる

 日本国債の利回りは、なぜ低いのか。国債の9割を国内の投資家が保有し、約1500兆円の個人資産を持つ国民が「預貯金や保険などを通じて買い支える」(エコノミスト)という構図が安定的に保たれているからだ。投機筋による売り浴びせで市場が混乱する事態は起きにくい。

 しかし、日本国債を支える条件にもほころびが見え始めている。日本の貿易収支は昨年、30年ぶりに赤字に転落。1月の経常赤字は過去最大の4373億円に膨らんだ。国民の貯蓄率も低下し始めており、国債に向かう資金が先細りする可能性を否定しきれなくなってきた。

 国際通貨基金(IMF)も腰を上げた。長期金利が約2.5%上昇した場合に日本の銀行が被る損害額などの報告を要請。「突然のことで驚いた。報告項目が追加される可能性もある」とメガバンク幹部は戸惑う。2月中旬の衆院予算委員会で日銀の白川方明(まさあき)総裁は、1%の上昇で国内銀行に6兆3000億円の評価損が生じると明らかにした。

 さらに米政府が米金融機関に対し、米国債以外の国債購入を事実上禁止する「ボルカー・ルール」を導入する方針を打ち出すなど、日本国債を取り巻く環境は厳しさを増している。

 各行は長期金利の急上昇に備え、償還期間が10年以上の長期国債はできるだけ売り、1年以内の短期国債に買い替えるといった対応策を検討中だ。ただ、「東日本大震災の被災地以外は資金需要が低迷したまま」(メガバンク幹部)のため、「国債投資に代わる運用先が見当たらない」(大手行幹部)のが実情。「日本の銀行である以上、国債のリスクから逃げ出すことはできない」(メガバンク幹部)というジレンマも抱える。

 国債急落を避ける抜本的な対策は財政立て直しを軌道に乗せることに尽きる。「しっかりしてくれと政府に言いたいのが本音」とのため息が、銀行界に渦巻いている。(高山豊司)

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