【揺れる森林大国】(上)停滞続く日本、現場に危機感

CLTを床材として使用した国内初の高層建築物=仙台市泉区(三菱地所提供)
CLTを床材として使用した国内初の高層建築物=仙台市泉区(三菱地所提供)【拡大】

 ■世界で急速に進む林業イノベーション

 「(日本が)世界有数の『森林大国』などと言っている場合ではない」。日本を代表する木質構造材メーカーの銘建(めいけん)工業(本社・岡山県真庭市)の中島浩一郎社長はこう強調する。

 中島氏は11日からインドネシア・ジャワ島などを訪れ、合板工場を見学してきた。扱う木材はマメ科植物の「ファルカタ」。ホームセンターでおなじみの木材で、5~7年で伐採可能となる。明るい色が特徴で安価なため、現在ではインドネシアの主要産業にまで成長。日本とは対照的に林業に勢いがある。

 銘建工業の拠点のある真庭市は総面積の8割がスギ、ヒノキなどの森林だ。同市には伐採から製材・加工までできる態勢が整っており、林業で成功している数少ない自治体の一つといえる。木質バイオマス利用も盛んで、真庭バイオマス発電所の年間売上高は24億5000万円に上る。

 真庭市は例外中の例外だ。国内の林業が長らく停滞し続けたのは疑いようがない。1955年に6000万立方メートル以上あった国産材の生産量は、2002年には1692万立方メートルにまで落ち込んだ。国産材の合板利用が進み、13年には2174万立方メートル、17年には2953万立方メートルまで回復したものの、日本の半分以下しか森林面積がないドイツの木材生産量は、日本の2倍以上だ。

 国土の3分の2が森林に占められている「森林大国」の日本が足踏みしているうちに、林業、木材分野のイノベーションはここ20年で急速に進んだ。

 1990年代、オーストリアを中心に薄い板を何層も重ねて強度を増した大型木製パネル「CLT」が普及、今や欧米では木材の中高層建築が主流となった。

 国内でもCLTの魅力が徐々に広まり、2016年4月にCLT関連の「建築基準法告示」が施行、CLT利用が本格的に始まった。

 今月13日、仙台市内にCLTを床材に採用した国内初の高層賃貸マンションが完成したが、CLTを使った建物はまだ少ない。17年度が86件、18年度は約130件にとどまっており、普及にはほど遠い状況だ。CLTの国内年間生産量は1万4000立方メートル。これは国内最大級のCLT生産工場を持つ、銘建工業だけで生産が可能となる量だ。

 中島氏の危機感は強い。

 「日本はまだ木に対するマイナスイメージが強い。欧州では、コンクリートの専門家が木の専門家になっている。早く意識を変えるべきだ」

 戦後大量に植林されたスギ・ヒノキなどの人工林が成熟し、伐採の“適齢期”に入っている。安倍晋三政権は「林業の成長産業化」を掲げるが、植林による花粉症ばかりクローズアップされ、林業の実態は知られていない。課題と展望を探る。

【用語解説】CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)

 繊維が直角に交わるように板を重ねた集成板。強度に優れ耐火性、寸法安定性も確保できる。1990年代に欧州で発展し、中高層建築や大型商業施設での利用が進んでいる。

 産経新聞社は20日、大手町サンケイプラザ(東京都千代田区)で国内外の林業分野の関係者を集めた「森林ビジネスイノベーション・フォーラム」(共催・日本政策投資銀行、後援・内閣府、林野庁、環境省)を開催する。入場無料。残席わずか。参加申し込みは「森林ビジネスイノベーション・フォーラム」で検索(https://id.sankei.jp/e/536)