ゆうちょ銀行の預入限度額が4月から今の2倍の2600万円に拡大することで、利用者は退職金などのまとまったお金を預けやすくなり、利便性が増す。一方で民間金融機関には預金がゆうちょ銀に流出して経営を圧迫することへの懸念が根強い。ゆうちょ銀も長引く低金利下で貯金が増えた際にどう運用するのかなど経営に不安を残す。
限度額引き上げは昨年3月に日本郵政の長門正貢社長が要望した。利便性向上のほか、貯金が限度額を超えた際の通知など事務負担を減らせるためだ。
だが、調整は難航した。ゆうちょ銀は日本郵政が約9割を出資し、その日本郵政の株式の約6割を政府が持つ。銀行業界は事実上の政府保証が残るゆうちょ銀への預金流出が進むと猛反発した。結局、現行の2倍の限度額で決着したが、郵政民営化委員会は反対派に配慮し、将来、日本郵政が持つゆうちょ銀の株式を3分の2未満まで売却する条件を付けた。ゆうちょ銀内での貯金獲得を評価する報奨の撤廃も求めた。
ゆうちょ銀にとって運用しきれないほど貯金が膨らむことはリスクでもある。ゆうちょ銀は個人や企業への貸し出しができず、運用に依存せざるを得ないが、超低金利で運用利回りは下落している。180兆円もの巨額貯金の運用は難しい課題で、経営上のリスクとして重くのしかかる。
株式売却の道筋についても依然不透明で、今後も議論が紛糾しそうだ。日本郵政は収益の大半をゆうちょ銀とかんぽ生命保険の2社に依存し、ゆうちょ銀の株を手放すことは企業体力の低下につながるからだ。
民営化委は日本郵政のビジネスモデルについて「再構築が必要」と指摘する。グループ内外で懸念がくすぶる中、日本郵便を含め、グループ戦略の青写真をどう描くかが問われそうだ。