香港、歴史的建造物を文化施設に アートや観光業などの発展促進

修復された元警察署の建物=香港(大館提供・共同)
修復された元警察署の建物=香港(大館提供・共同)【拡大】

 英国の植民地だった香港で、歴史的な建造物を保存修復し、芸術・文化施設などとして活用する取り組みが進んでいる。文化財を後世に残すとともに、アートや観光業の発展を促し、地域経済を活性化させる狙いがある。5月には、約170年の歴史を持つ元警察署が、総合文化施設「大館」として生まれ変わった。

 大館修復は香港政府と香港ジョッキークラブの共同プロジェクトで、38億香港ドル(約540億円)を投入。金融街セントラル(中環)の約1万3600平方メートルの敷地に、1841年以降に建てられた警察署や裁判所など16の歴史的建築群と新設の芸術施設が立ち並ぶ。

 このうち香港最古の刑務所「ビクトリア監獄」は、ベトナム建国の父、ホー・チ・ミンが1930年代に一時収監されていたことで知られる。大館では建築群見学ツアーのほか、演劇や展覧会なども開かれ人気だ。

 急速な経済発展に伴う都市再開発で古い建物が次々と失われてきた香港で、文化財保存の機運を高める転機になったのは、2006年の香港島と九龍半島を結ぶスターフェリーの埠頭(ふとう)取り壊し反対運動だった。

 政府の埋め立て計画に基づき、約半世紀にわたり市民に親しまれてきた埠頭を取り壊して移転することになり、埠頭のシンボルの時計台の保存を訴えるデモ隊が警官隊ともみ合った。

 埠頭は取り壊されたが、この運動を契機に文化財を「集体回憶(集団の記憶)」として残そうとする意識が広まった。メディア関係者は「1997年の香港返還以降、急速に『中国化』が進んだ反動で、市民らが香港らしさを求めるようになった」と分析する。

 こうした流れを受けて政府は2007年、歴史的建造物の保存・活用を推進する方針を発表。NPOなども協力し、警察宿舎や古い公共団地が、アート複合施設やホテルとして息を吹き返した。

 既にオープンした施設も含め、計約30の大型プロジェクトを計画。保存事業を主管する発展局は「歴史ある建物を価値ある文化施設によみがえらせ、雇用創出など旧市街地の活性化につなげたい」としている。(香港 共同)